武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 4月第3週に手にした本(15〜21)

*今週末の寒のもどりには参った。急にダウンを引っ張りだして、季節外れの寒さに耐えた。北風に背中をおされての散歩はいいが、北風に向かって歩くときは、老顔が引きつりそうになった。手袋まで引っ張りだして、武蔵野の裸になった落葉樹が、ヒューヒュー唸り声を上げるのを聞きながら歩いた。足元には、春めいた気候に誘い出された野の花がしっかりと花をつけ始めていた。

夢枕獏著『シナン(上) 』(中央公論新社2004/11)*イスラム建築史の巨星、セルミエ・モスクの建築家シナンを主人公にした歴史小説。以前にトルコを旅した時、モスクを築いた建築家たちのことに興味をもったが、そのままになっていた。それが、夢枕獏歴史小説として読めるというので手に取った。キリスト教建築に比べ資料が乏しいことと思われるが、小説家の想像力で補った部分が多いのだろう。力作である。

柳原良平著『第4船の本』(至誠堂1974/3)*1章が良平の船舶白書、2章が良平の海外見聞録、2章が新・良平の船旅案内、よくぞこんなに船をテーマに話題が続くと感心する。鉄道の世界も広くて深いが、船の世界も凄い。最後のページに、既刊3巻の正誤表が<カッコの悪い間違い>と題してまとめてある。誤植よりも明らかな勘違いの訂正が著者らしくて愉しい。

◎堀秀彦著『死の川のほとりにて』(作品社1987/4)*老人の世界をテーマにして書き継いできた著者の、これは遺作に近い作品集、さすがに文体から艶が抜へてきたというか、少し手応えが希薄になってきている。著者も文体も共に死に近づきつつあるという印象は読んでいて辛いものがある。

モンテーニュ著/原二郎訳『モンテーニュ/エセー1.2』(筑摩書房1962/1,7)*世界文学体系におさめられたこの原二郎訳が、個人的な好みでは意味がスッキリしていて一番読みやすい気がする。堀秀彦を読んでいて、「モンテーニュの随想録は高齢者の心の同伴者」と言う評がしみじみと分かる気がした。