武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 5月第1週に手にした本(30〜6)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。(今週もたくさんの本を手にしたが全部読了できたわけではありません。

石子順造著『子守歌はなぜ哀しいか/近代日本の母像』(柏書房2006/12)*1976年に出た元版を再版したもの、<母もの>の仮構性を脱構築しながら、この国の文化的特性を浮かび上がらせる手つきが見事な力作評論。
◎宮永孝著『ポーと日本/その受容と歴史』(彩流社2000/5)*ポーの我が国への影響を詳細に研究した画期的な受容史。後ろに付いている資料編を含めると700ページを越える大冊なので、時間をかけて資料として活用したい。拾い読みした限りでは、取りあげられている関係者への眼差しがとても温かい感じを受けた。膨大な資料と情報が著者のもとに集まった所以だろう。ポー研究に時代を画す記念碑。
エドガア・アラン・ポオ著/佐々木直次郎訳『エドガア・アラン。ポオ小説全集全5巻』(第一書房1931/9)*同郷の名翻訳者の著書なので、格安の古書をセットで見つけ思い切って入手、平明で屈託のない日本語は、時代をこえてポオ愛読者を引きつけるだろう。千部限定の和紙を使った部分革装の豪華本は、時代を経てさすがに相当くたびれていた。手にとること自体がある種の喜びになるような本は、我が書庫には珍しい。
宮田昇著『戦後「翻訳」風雲録』(本の雑誌社2000/3)*元編集者にして元海外著作権エージェントの仕事を長らく務めてきた著者ならではの、翻訳関連の人物回想録、大好きな翻訳物の語られざる裏面が興味深く綴られていて、興味津々だった。暖かい気配りと穏やかな距離感をおいて語られる、数々のエピソードに目を瞠った。
◎『20世紀の文学/世界文学全集36現代評論集』(集英社1967/5)*選りすぐりの評論を集めたと、当時評判になったアンソロジー、冒頭の源氏物語論と最後のサド論が出色、密度の高い傑作評論が集められていて愉しめる。半世紀たった今でも古びていない。この一冊だけでも手元に置いておきたい。
◎武井麻子著『ひと相手の仕事はなぜ疲れるか/感情労働の時代』(大和書房2006/12)*第三次産業で働くサービス業の労働形態を切り口にして、人間の<感情>をこれほど鮮やかに対象化し扱いきった著作は、個人的にはこれが初めて。扱いやすい理性ではなく、思うとおりにならない感情を、正面から問題にして、記述の展開が実に説得的。人間関係が苦手の人の多くは、ままならない相手の感情に手を焼くケースが多いと思うので、本書は参考になる。感情をこれほど分かりやすく上手く扱った本は珍しい。言いかえれば、取り扱いやすいように感情を対象化した方法が優秀なのか。