武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 5月第2週に手にした本(7〜13)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。(今週もたくさんの本を手にしたが全部読了できたわけではありません。

◎坂田隆著『大腸・内幕物語/知られざる臓器をさぐる』(ブルーバックス1989/4)*消化器官の末端に陣取る大腸については、教科書では消化の最後に残った水分を吸収する臓器としてしか語られず、私にとってはその複雑かつユニークなその仕組みについては無知の壁の向こうに置かれたままだった。本書は、そんな知られざる臓器とその機能について分かりやすく解説した最良の科学啓蒙書。良質な啓蒙書を読むと、視野がクリアーになり頭が良くなったような錯覚を覚えるが、本書もその一冊、例えば、食物繊維について科学的な知見が欲しい人は是非本書を繙いて欲しい。スッキリ分かることを保証しまよ。
邱永漢著『食は広州に在り』(龍星閣1957/5)*半世紀以上も前の中華料理をテーマにした食の随筆、私は本書を手にして初めて、中華料理を語る文章を身近なものに感じ、文を通して中華の広がりと奥行きに接近する手立てを得たと思った。30代の何時頃か本書を手にして、以来何度読み返してきたことか。これ以上の中華入門書にはまだ出会ったことがない。著者は自らも台所に立つ人らしく、試行錯誤を重ねた経験の裏付けがあり、単なる食通を超えた説得力は何度読み返しても魅力を失わない、食随筆の名著である。
石子順造著『石子順造著作集第1巻/キッチュ』(喇叭舎1986/5)*キッチュ論を巻頭に、俗悪論、都市論、俗信論を納めたエッセイ集。大衆的であること、俗悪であることに焦点を当てて、サブカルチャの存在理由を情熱的に肯定しようとあがく執拗な姿勢が今でも貴重に思えてならない。メディアの主流が見落としている大切なものを掬いとろうとする一貫した姿勢に同時代批評のしぶとい目を感じた。
◎鷲田小谷彌太著『定年と読書』(文芸社文庫2011/2)*この著者の発想やものの考え方には、違和感を感じることが少なくないのだが、定年後の読書が定年後の人生を豊かにする鍵になるというこの一点だけは、文句なしに同意できた。読んでいて、肯定と違和が随所で入れ替わり、通読するのに疲れた、こういう読書経験は久しぶり。
◎平山一政監修/タカコ ナカムラ著『低温スチーミング入門』(自然食通信社2011/6)*食材の加熱処理には、最適な温度と加熱時間があるという言う発想は自然、美味しさの官能検査と保存性、鮮度ある色に着目しているのも説得的、しかしながら低温のスチームを温度管理する面倒くささと加熱時間の長さがネックの調理法。例えば、ほうれん草は70℃で15分、ブロッコリーは80℃で30分、これではどんなに美味しくても現代人の台所では受け入れようがない。低温の温度をもう少し高めて、時間短縮はできないのかしら、若干できあがりに不満があっても調理時間はもう少し短い方が助かる。この調理法、理想倒れで終わってしまうのは惜しい。