武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 3月第3週に手にした本(18〜24)

*用事があって中部地方へ長距離移動してきた。遠くの山々を見ると、冬景色ながら春の日差しを浴びてゆっくり芽吹き始めた気配が広がっていて、なかなか良かった。週末に50数年ぶりの、中学校の同窓会に行ってきた。半世紀たっても人柄があまり変わってないことにじんわりと感動した。半世紀は長くて短かった。

貴志祐介著『悪の教典(上) 』(文藝春秋2012/8)*教育に関わる情報を丁寧に取材してあるので、読み進めるにつれて学校現場に連れ込まれるような怖さがある学園サイコ・ホラー小説。視点人物が教師なので、生徒の側に立つ怖さではない。ホラーを記述するのに特化したような怜悧な感じのする文体が気に入った。

辻まこと著『山からの絵本』(創文社1966/7)*古本でしか見かけなくなっていた著者の本を、99年刷りの新刊のような美本が廉価本コーナーで見つかり迷わず買った。著者のモダンなタッチのイラストと味のある文章を辿ってゆくと、深山幽谷から吹いてくるそよ風が部屋に届いたような朗らかな気分になってくる。熱心なファンが多い理由が分かる気がした。

吉川英治著『宮本武蔵』(Kindle版)*著作権フリーになった名作長編を一括して廉価販売するこうのようなビジネスは大歓迎。吉川英治版武蔵が200円でダウンロード出来とは、いい時代になった。好みの本文レイアウトで読み始めたら、夢中になって読んだ高校時代に帰った気がした。アクションシーンの描写が蛋白なことに、古き良き時代の時代小説を感じた。

会津八一著『自註鹿鳴集』(新潮文庫1969/6)*会津八一の平仮名で記された和歌を読んでいると、日本語の音韻の美しさと、硬い板を彫刻刀で彫り進むような意味の手触りを感じて、自然に気持ちが安らいでくる。自作を自注するという創作者としては珍しい行いも、全く嫌味なく受け入れられる不思議。入江泰吉の数枚の写真との輻輳が面白い。