武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

二学期制について

 最近、各地で二学期制を採用する小中学校が増えてきました。地域によって二つの制度が混ざり合った現状ですが、全国的には三学期制が減り二学期制が増える傾向にあります。
 二期制を採用する学校が増えてきた背景と実情を検討してみましょう。
(1)法的な背景
 地方分権規制緩和の動向を受けて学校教育施行令29条が改正されました。「学校の学期は、公立の学校については、当該学校の所在する都道府県の教育委員会が、私立の学校については当該学校の所在する都道府県の知事が定める」と決められ、決定権は都道府県の教育委員会にありました。
 98年に改正され99年4月から施行された学校教育施行令では、「公立学校の学期及び夏季、冬季、学年末、農繁期等における休業日は、当該学校を設置する市町村又は都道府県の教育委員会が定める」と変更されました。公立学校の学期は、学校を設置する都道府県教委または市町村教委が「学校管理規則」で決めていいことになりました。地域の教育委員会が、規則をつくり自由に学期に関することを決められるようになったのが各地の二学期制の法的な根拠です。
(2)完全5日制と学力問題、絶対評価
 二学期制が増加するようになったもう一つの背景は、完全週5日制の実施と、学力低下問題、絶対評価の導入などがあります。
 五日制を完全実施すれば授業時数が減少することは自明のことでした。授業時数が減ったら指導内容が減り、量をこなすような内容の学力が低くなるのは当たり前のことです。この事実を「ゆとりと充実」などというごまかしの論理で言いつくろったのが文部省の方針でした。この矛盾を突いて噴出したのがいわゆる学力低下問題です。
 同時に学校では、問題の多かった相対評価絶対評価に転換する方向で評価の見直しが始まりました。技術的に難しい絶対評価の導入で評定期間が短くなってしまう3学期が問題になりました。絶対評価の導入は,特に観点別評価から評定への総括が複雑です。評価可能な十分な授業時数の確保と,より正確な評定をするために、二期制はしだいに増加するようになったのです。文部科学省もその方向を奨励しました。
(3)二学期制では学校はどうなる
 これまで3回あった学期始めの始業式と終わりの終業式が2回に減ります。学期終わりに学校が発行していた通知表が2回発行になります。運動会や遠足、社会科見学、学芸会、展覧会などの学校行事は、少し減る傾向にありますが、大きくは変わらないでしょう。夏と冬と春の長期休業日が、地域の教育委員会で決められるようになったので、少しずつ変わってくるかも知れません。子ども達の学校生活にもあまり大きな変化はないでしょう。
(4)何が変わるのか
 二学期制を推進している側の言い分を調べてみると、主張の柱になっている事柄に共通点があります。以下に整理してみましょう。
①長期休業で分断されていた指導計画が、長期的に立案できるようになり、学力の向上を期待できるというものです。授業時間数が少し増えますが大した変化ではありませんし、計画が長期休業にまたがっても、長期休業をなくすわけではないので、これも大した変化にはなりません。この主張には、無理があります。
②家庭訪問や個人面談など、教師と保護者の間で行われていた学校行事を、夏休みに移行して、短縮授業などで削られていた授業時数を回復し、休業中は時間が確保できるので面談時間を増やし緊密な意思の疎通が図れるというものです。長期休業中の授業のない先生達をフルに動かし、無駄なく使おうという発想です。子ども達のためになるならないは別にして、この意図は二学期が好都合です。本当のねらいはこのあたりにあるようです。
③授業時数が確保できてゆとりが増えるという主張があります。二学期制の実施により実質授業時数は、小学校で13〜24時間、中学校で19〜46時間ほど増えるという報告があるそうです。この実質授業時数というのが曲者です。子ども達が日中の活動時間の大半をすごす学校では、いろいろなことに時間をとられます。どんな小さな行事ひとつを実施するにも、企画立案から、具体的な準備、実施、後片付け、計画自体の総括まで、かなりの時間を要します。家族が旅行することを思い浮かべれば分かります。授業も同じです。行事も集会もみんな授業です。実質授業時数の定義を狭くしてしまうと、学校からいっさいのゆとりがなくなりかねません。この主張にも無理があります。
(5)三学期制を評価して
 慣れて当たり前だった三学期制は、そんなに不都合なものでだったのでしょうか。6月後半から7月にかけての蒸し暑い日の午後など、空調設備のない教室はとても学習に適した環境とはいえません。過酷な季節に無理して確保した実質授業時数など、子どもと教師を拷問にかけるようなものです。長期休業前の通知表とあの開放感、子どもからあの開放感を奪ってしまっていいのでしょうか。どこの二学期制の宣伝でも、「長い休みの過ごし方についてきめ細やかな指導ができ、学習・生活面で目的意識をもって長い休みを迎えることができます」といっています。長期の休みの時くらい子ども達をそっとしておいてほしいものです。北でも南でも足並みを揃えるようにして二学期制へ移行するのにはかなり無理があります。三学期制でもできること、三学期制でなければできないことを再検討するほうが先のはずです。