武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 食事あるいは料理について、まじめに考えるきっかけを作ってくれた本、食べることについて考える糸口をつけてもらった一冊。

toumeioj32005-08-02

 考えてみれば当たり前のことだが、私たち生き物の身体は、口から取り入れた食物で出来ている。生きている身体とは、そうゆうもの。細胞が自ら分裂を繰り返し、摂取した養分をもとにして、身体全体を片時も休まずに再生産し続けている。髪の毛も頭も顔も、身体や内臓はもとより、腕も足も、眼球や爪や指先、体毛から血液の一滴まで、原料となっているのは、私たちが口から取り入れた食物、食べたもの以外のいかなるものも、私たちの身体を構成していない。
 これほど間違いようのない、自明の理も余りないような気がする。あなたが食べたものが、あなたの体のすべて、それ以上でもそれ以下でもない。この事実に気づいた時、余りの自明さに、私は愕然となった。そして、何を食べるかに少し注意を向けるようになった。
 特に、自分の子どもが生まれ、親として自分の子を育ててゆくことを思った時、この子らに何を食べ物として選んでやればいいかを考え、その親としての責任の重さにうなだれたくなるような感じをもった。少し調べてみれば分かるが、やっと人生を歩み始める子どもらに与えたくないような食べ物が、町の商店に溢れかえっている。自分が食べる時にはそれほど気にかからなかったが、人に食べさせる段になると、いい加減ではすまなくなる。食べ物が、身体の成長の、文字通り糧となるからだ。
 この本は、そのあたりのことを考えて書かれている。どんなに美味しい料理でも、栄養豊かな献立でも、よしやってみよう何とかできそうだという気にさせなければ何も始まらない。実践に踏み切るステップの出来不出来が、ことの成否を左右する。
 この本の内容を見るためにざっと目次をみてみよう。

第1章「丸腰で立ち向かうな」
第2章「卵、牛乳、あさり、レバー−四つの完全食品で防衛せよ」
第3章「よい朝食がよい夕食につながる理由」
第4章「美味しい味噌汁の作り方と魚を家庭にとりこむシステム」
第5章「根・茎・葉・実すべてを食べる」
第6章「野菜の正しい加熱法」
第7章「スープの味を一変させるストック」
第8章「肉はステーキで食べよ」

 著者に言わせると、旧来の栄養学ではなく、現代栄養学で理論武装しての実践だそうだが、説得力はなかなかのもの、だが、ご覧のように〜〜せよ、〜〜するな、少々押し付けがましく迫ってくるのが、チトうっとうしい。私はそんな著者の気合の入れよう、真摯な熱心さに好感をもって読みました。本の中から、その通りだと思って参考にした考え方を拾い上げてみよう。
 ①「食べてカロリー(熱量)になるのは炭水化物と脂肪で、これが身体を動かすエネルギーの素、人体の燃料と言っていい。余分に取り過ぎると脂肪になり体内に蓄積される。」
 ②「必須栄養素というのは人体にとって必要不可欠で、しかも、体内で合成できないためにどうしても食事によってとらなくてはならない物質。体内に貯蔵できる時間は限られているので、毎日の食事でとらなくてはならない。8種の必須アミノ酸、10数種のミネラル、20種近いビタミン。」たんぱく質もビタミンも全部ここに入れてしまうところが、すっきりして分かりやすい。
 6種類の栄養素でも4群でもなく、たった2種類、<燃料>と<必須栄養素>、必要にして十分な燃料を補給してやり、あとは、必要不可欠な栄養を追加してやる。私は、この考え方が気に入りました。納得できた。
 台所を工場の生産現場と考えると、分かりやすい。第1に原料の仕入れをどうするか。第2に在庫をどの程度抱えるかの在庫管理。製品はすぐ口に入って消えるから、市場調査は無用、家族の嗜好と季節感を加味すればいい。後は、現場の生産技術、調理法のノウハウと言うことになるが、この本の著者はこの点に相当にこだわるところが面白い。いかにして作るか、何を作るか、この点については、本書をお読みいただきたい。著者が使う道具にこだわりを見せるところなど、男の料理の面目躍如、好感がもてますよ。
 1982年6月1刷の少し古い文庫だが、20年たった今でも基本は古びていない。丸元さんのその後の多数の料理書の出発点になった料理書の傑作。私はこれが丸元料理書のベストと思っている。せひ、手に取って見ることをお薦めする。Amazonのユーズド価格で47円でした。安く手に入ります。ぜひどうぞ。