武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『自家菜園歳時記』 伊藤益臣著 (現代教養文庫)

 動植物の飼育栽培が苦手な無精者だが、動植物は大好き。丹精込めて栽培された草木を愛でる気持ちだけは、栽培者に申し訳ないが、人並みに旺盛、可愛がって育てられたペットも微笑ましくて、つい手が出てしまう。
 さて、本書は昼間サラリーマンとして働く方の、家庭菜園の12ヶ月を、栽培技術のノウハウと季節の心境を織り交ぜた、ワクワクするエッセイ風読み物。10年に及ぶ野菜作りの経験がいろいろな思い出と工夫を生んで、少しずつ読んでいくと、自分にも上手な家庭菜園経営がやれそうな気がしてくる。通りがかりに立ち寄って、積み重ねた試行錯誤と研究の薀蓄に耳を傾けているような、のんびりした楽しさがある。

 商品生産としてではなく、実益を兼ねた趣味として、菜園経営をいかにも楽しんでやっているところが、読むものの心を慰めてくれる。仕事としての野菜栽培となると、もっと厳しい条件に縛られるので、こんな楽しい思いは味わえないはず。化学肥料や農薬を使わず、自分のポリシーに従って、のんびりと野菜を育てる著者の姿が、何とも微笑ましい。
 これから退職する団塊の世代の中には、退職後の畑作りを予定している方も少なくないと思うが、この本はその気にさせてくれる一冊ではないかという気がする。最後に、本書の目次を引用しておこう。どこから読んでも、押し付けがましくなくて、文章がなめらかで明快、気持ちよく読めます。

作づけ計画(1月)
春に備えて(2月)
種蒔き植えつけ(3月)
種蒔きの季節(4月)
育ち盛りでおおわらわ(5月)
適期を逃すな収穫期(6月)
沼に手をかけ砂漠に水をかけ(7月)
夏採り野菜の最盛期(8月)
秋蒔き遅れるな(9月)
育ち旺盛収穫自在(10月)
収穫たけなわ秋蒔き野菜(11月)
防寒対策と土づくりの事前準備(12月)