武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『笑う警官』 佐々木譲著 (ハルキ文庫)

  ミステリー小説に<警察小説>と呼ばれるジャンルがある。警察官を主人公にし、警察組織を背景とする冒険小説もしくはミステリー小説。佐々木譲さんのこの道警シリーズは、新たな警察小説の誕生を期待させるシリーズ第1作。
 ①日本の警察機構は、中央組織の警察庁と地方組織の都道府県警察署の二本立ての組織。したがってどの警察組織を背景にするかによって物語の骨組みが大きく変わってくる。中央と地方の協力と対立を物語にどう組み込むかによっても、展開に多様な変奏が可能になる。本作「歌う警官」は、北海道警察の組織内の腐敗に、中央から派遣されてキャリア警察官をからめ、主人公佐伯を司令塔とする道警の心ある警察官チームの活躍を描く警察小説の王道を行くような作品。
 ②美人婦人警官の殺人事件を核にして、2002年の道警不祥事を遠景とする複雑な筋立てながら、巧みなストーリー展開で裏の捜査本部結成と犯人探しが快調にすすみ、読者を一気に物語の流れに乗せてくれる。謎が次の謎を呼び、半日しか残されていない制限時間のなかの真犯人捜査が、筋立てに見事な緊迫感を漲らせる。
 ③内部告発を嫌う警察組織内部の倫理感を巧妙に組み合わせて、登場する警察官の複雑な動きを動議づけしたところなど、面白い心理劇になっている。どんな組織にもある組織自体の保存衝動のようなものの残忍さと、組織の個人に芽生える自己保存の欲望、そして組織再生への浄化的な動きの複合。この設定なら、まだまだシリーズで面白い物語が期待できそう。
 ④主人公達のチームの一員として活躍する小島百合という婦人警官がいい。理知的で爽やか、激しく動き回る男達の中にいて紅一点、しっかりした現代女性の見本のよう。色恋抜きの達者な仕事ぶりが渋く輝いている。
 ⑤折にふれて登場人物の一人が連発するダジャレだけは、何ともいただけない。あまりに洗練されたシャレを期待する訳ではないが、もう少し何とかならないか。佐々木譲さんの小説に、明るいユーモアが加わると、物語の幅がさらに広がると思う。今後に期待しよう。明るいユーモアは大衆小説の王道。頑張ってください。
 ⑥敷設されたすべての伏線と本筋が、1本に合わさる終章にさしかかるあたりのスピード感、灼熱感は相当なもの、この盛り上がりが書きたくてこれまで書いてきたのかと思う程に、物語は大団円に向かって一気に盛り上がり、あっけなく幕が降りる。この幕の下ろし方で、読み味の評価が分かれると思うが、私は爽やかな終わり方だと受け取った。
 すでに、第2作「警察庁から来た男」が出ており第3作も準備中とか。今のところ強烈な個性は感じないが、なかなかの警察小説シリーズになりそうな気がする。読み始めたら、確実に止められなくなる面白本の1冊としてどなたにでもお勧めしたい。