武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『家族になったスズメのチュン―森の獣医さんの動物日記 (森の獣医さんの動物日記) 』 竹田津実著 (発行偕成社1997/09)

 スズメと生活を共にしたお話「小雀物語」がとても面白かったので、この国にも類書がないか捜していて本書を見つけた。「小雀物語」はイギリスの老婦人ピアニストが書いた話だったが、本書は北海道に暮らす獣医さんが患者として対応したスズメの話、味わいも展開も全然違うのに、こちらの方も非常に面白かった。
 この著者の竹田津さんは、北海道で家畜の獣医を本業にするかたわら、何らかのトラブルで担ぎ込まれた野生動物を治療し回復したら、野生に戻すボランティアを長年やってきた方、そこへいろいろな野生動物とともに持ち込まれたスズメが、治癒しても自然へ戻ろうとせずに診療所に住み着いてしまう。目を開いた時に初めて見た生き物が竹田津さん夫妻だったので、自分を人間だと思い込み、診療所を自分の住処と決め込んでしまったのだそうだ。
 この勘違いというか、思い違いが、数々の珍騒動とトラブルを生み、人間とスズメの行動パターンの違いが暮らしのいろいろな場面に出てきて、著者の軽妙な筆運びにのせられて、何度も笑わされながら、最後まで楽しませてもらった。春になってオスとしての本能が目覚めて、巣作りを繰り返し、竹田津夫妻以外の訪問者をすべて外敵とみなして攻撃的になる場面など、笑劇を見るようで実に可笑しいが、考えてみるとそれが野生の本能なので、ひたすらに本能的に行動するチュンの姿から、野生動物と共生することがいかに難しかよく理解できる。専門の獣医さんにしてこうなのだ。
 スズメにも一羽一羽に微妙な個体差があり、その違いがスズメという種の多様性となって環境の変化に対応する種の生き残り戦略になっているんだなという感慨をもった。診療所につれて来られたほかの動物たちにもいろいろな病気があり、なかでも精神疾患にかかったキタキツネの話には胸が痛くなった。
 獣医さんが書いた本だけに、本能への理解と、野生動物との距離の取り方がしっかりしていて、誰にでも安心して勧められる良書に仕上がっている。子ども向けの本に分類されているようだが、大人が読んでも十分に面白い。鳥獣保護法にもサラリと触れているので安心。挿入されている写真のチュンが余りに可愛くて読み終わった後でも、何度も見て楽しんだ。
 子ども向けの本の中に、意外な掘り出し物が潜んでいることがある。図書館などで探すときには、時には児童書コーナーをのぞいてみるのも楽しいかもしれない。
(追記)「すずめしんぶん」というユニークなサイトを見つけた。徹底してスズメだけに関心を集中した可愛いイラストを多用した、面白いサイトです。この方は、ご自分で「すずめしんぶん」なる機関誌を発行なさっている方です。スズメフリークもここまでくると立派です。下記のURLをクリックしてみて。
http://www005.upp.so-net.ne.jp/kks1377/index.htm



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