武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 インドツアー印象記(6)


 素晴らしい石窟寺院を見過ぎて注意力が散漫になってきていたので、この日の古代遺跡は新鮮だった。
 <観光した世界遺産その8>ビンベットカのロック・シェルター群は、登録基準の3番と5番に適合するらしい。1万年以上前の中石器時代にインドで暮らしていた原人たちの壁画、といっても洞窟の壁面に刻まれた素朴なクロッキーなのだが、くっきりと鮮明に残っており、狩猟や儀式などの様子が今でも実によく分かる。 (右の画像の奥に岩石群があり、原人ロックシェルター群がごろごろしている)

 狩猟採集時代の食べることに精一杯だった未発達な人類にとって、図案をしるしたり絵をリアルに描いたりする表現力がうまれたと言うことは、次なる文明の段階へ発展するための、知的余裕が出来てきたことを意味するらしい。美しさを意識する人々、バランスや面白さを物作りで追求できるようになることは、新たな段階への準備が整ったということ。私たちの生活でも、絵や音楽などの芸術を楽しむ余裕を失うと、生活の低迷、マンネリ化が始まる、何となく似ているような気がしませんか。

 デカン高原のビンディヤ山脈山麓にあるこの石窟には、当時の人々の生活の痕跡も残っている。トンネルのようなところで営まれていた儀式の跡まで残っている。住居跡だったのか、宗教的な神聖な場所だったのか、いろいろなことを想像させてくれる実に面白い遺跡だった。

続いて行ったのは<観光した世界遺産その9>サンチー仏教遺跡群、インドに現存する最も古い仏教関連遺跡、紀元前3世紀頃の建造と言うから驚き。世界遺産の登録基準の1番と2番、3番、4番6番に相当するとされている古代遺跡。

 素晴らしいのは門のような形の塔に彫り込まれた彫刻やレリーフ、隆盛を誇った古代の原始仏教の勢いを感じさせる造形、紀元前3世紀にすでにこのような技術と造形感覚が存在していたことは驚き。公園のような周囲の環境整備も行き届いており、気持ちよく遺跡見学が出来るようになっている。
 この日は、以上2カ所の世界遺産を午前中に観光して昼食をとったあと、走行時間にして約10時間、カジュラホまでの300km余りをバスで移動した。日本の高速道路なら300kmなら3〜4時間程度の移動だが、インドの田舎の道路事情ではほぼ10時間、途中には気の利いたサービスエリアなどあるはずもなく、2時間おきに青空トイレ、凹凸の激しい悪路を飛び跳ねながら移動することになった。途中で恒例のパンクがあって、田舎の村人達との思いがけない国際交流があったりして、1時過ぎに出発して宿にたどり着いたのは間もなく翌日になろうとする深夜だった。ハッキリ言って、インドは道が悪い。背骨にきますよ。