武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

本の備忘録[] 11月第2週に手にした本(7〜13)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新していきます。
◎工藤美代子著『寂しい声―西脇順三郎の生涯』(筑摩書房1994/1)*何度読んでもその詩の良さがよく分からず、手探りするしかなかった西脇の詩に、評伝から接近してみようかと思い立って手にした本。どんな生涯を送った人かは少し分かった。詩篇との距離が縮まっていればいいのだが(笑)。
小島政二郎著『人妻椿(愛欲篇) 』(マルエ洋行出版部1947/3)*この2冊はレビューをアップしてあります。
小島政二郎著『人妻椿(解決篇)』(清泉社1947/12)*古書店でもめったに見ない珍しい版です。稀覯本
石垣りん著『石垣りん詩集』(角川春樹事務所1998/6)*石垣りんさんの詩には、分かりやすく言葉の口当たりもいいのだが、奥の方に堅い骨のような何かが潜んでいて、安易に飲み下そうとすると喉にひっかりそうな感じがする。不思議な食感である。この撰集を手にして改めて四詩集が読みたくなった。2004年に亡くなられている、ご冥福をお祈りする。
◎ヴァン・ローン著日高六郎、日高八郎訳『人間の歴史の物語(上) 』(岩波少年文庫1978/11)*欧米に視座を置いた子ども向け人類史の前編、歴史の要点を絞り込むことに掛けてはこの本の右に出る本は少ない。記述の分かりやすさにおいても。日高兄弟による複数訳も良かったのだろう。どこの図書館にもきっと置いてある名著であるが、書店では見なくなって久しい。
◎岡部牧夫、岩間雅久共著『人が野山を歩くとき』(評論社1981/7)*《野外への扉》シリーズの1巻目、アウトドア・ライフへの入門書という位置づけの本だが、テキストが充実しているので、野外活動の随筆として楽しめる。所々に引用したくなるような名文で綴られているロマンチックなアウトドアガイド。ただし30年前の感覚でもある。
◎山本高一著『鰹節考』(筑摩叢書1987/2)*昭和13年に東京鰹節問屋組合が創立50周年を記念して出版した「かつをぶし」を補充して、復刻した<鰹節百科>、歴史、製法、鰹漁業、取引、使用法、効用など、鰹節にかかわる知識を多面的に蒐集し整理したもの。業界団体の記念出版物には貴重な情報が多い。

岩波書店文学編集部編『 「文学」増刊・圓朝の世界―没後百年記念特集』(岩波書店2000/9)*明治中頃まで、この国では<話す>ことと<書く>ことは全く別の表現方法だった。圓朝の話芸の速記録に触発された二葉亭四迷が言文一致の『浮き雲』を書いて、<話すように書く>という日本語表現の新次元が始まった。かつての文豪が揃って落語フリークなのは偶然ではない。そんなことを再認識させてくれる文集。
◎名著複刻全集近代文学編集委員会編集/三遊亭円朝演述『怪談牡丹灯籠(壱) 』(東京稗史出版社 明治17年刊の復刻)*和紙を和装した復刻本、明治の人は何と優雅なものを手にして物語を楽しんでいたのだろう。演述の速記録、言文一致のプロトタイプがここにある。噺がそのまま文字となった歴史的書物、復刻でも手にすると感慨がわいてくる。話し言葉と書き言葉を<速記>の技術が媒介したことは、あまり知られていない。速記録とはテープ起こしのようなものと思えば分かりやすい。このことはもっと注目されて良い。 (画像参照)
◎村尾嘉陵著,朝倉治彦編注『江戸近郊道しるべ』(平凡社東洋文庫1985/8)*200年前、清水徳川家に使えていた旅行好きな家臣村尾嘉陵が40歳から70歳頃まで、江戸近郊を歩き回って書き留めた紀行文とスケッチ『嘉陵紀行』のダイジェスト。克明なメモが当時を視覚的に再現してリアル。江戸後期の田舎の情景が蘇る。勿論全部歩きで日帰りが原則、当時の人の健脚ぶりに感心する。散歩文学の古典的名著。朝倉治彦氏の編集と注のご苦労に頭が下がる、素晴らしいの一語に尽きる。「日和下駄」の江戸時代版。
◎村尾嘉陵著, 阿部孝嗣訳『江戸近郊ウォーク 』(小学館地球人ライブラリー1999/4)*「江戸近郊道しるべ」のさらなるダイジェスト版現代語訳、こちらを先に入手、東洋文庫のようなスケッチや図版はほとんど割愛されている。読みやすいがチト物足らない。どちらか一冊選ぶとしたら東洋文庫かな。
石垣りん著『私の前にある鍋とお釜と燃える火と』(童話社2000/10)*1859年書書肆ユリイカ刊の第一詩集の復刊本。石垣りんの4詩集についてはレビューをアップしてあります。
石垣りん著『表札など』(童話屋2000/3)*1968年思潮社刊の復刊本。この詩人のピークを築く傑作詩集。
石垣りん著『略歴』(花神社1979/5)
石垣りん著『やさしい言葉』(花神1984/4)
荒俣宏男に生まれて―江戸鰹節商い始末』(朝日文庫2007/9)*江戸時代に完成した鰹節が、商業を通して日本人の味覚の底辺に浸透してゆく様子をイメージしたくてこの物語を手にした。荒俣宏さんの堅実な江戸趣味に感心した。