武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 12月第3週に手にした本(19〜25)


*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新します。
◎宮部金吾・工藤祐舜著/須崎忠助画『北海道主要樹木図譜普及版』(北海道大学図書刊行会1986/10)*詳細なカラー図譜の植物図鑑、普及版でみてもイラストの絵が単なる植物画を超えて画面に引き込まれるような魅力がある。特徴は、一画面に「分類上必要な各器官の解剖図とともに、林業上必要な種子・幼苗の各段階」までがバランス良く配置され実に美しいこと。樹木の全体像ではなく、枝先や種子の細部の細密画による見事な再構成を見ていると、思わず「神(美)は細部に宿る」と呟いてみたくなる。
◎アルベルト・マングェル著/野中邦子訳『図書館−愛書家の楽園』(白水社2008/10)*読書の楽しみと効用について、本を集積している図書館から書斎までの歴史を交えて、縦横無尽に語り尽くす随想集。本を読む喜びをこれほど臆面もなく前面にさらけ出した本も珍しい。世界中の本を集めた古代エジプトアレキサンドリア図書館に火を放ったウマル一世の強烈な台詞が引用されている。「これらの書物がコーランと同じなら、それらは不要なものである。コーランと相容れないなら、それらは有害なものである。いずれにしても、これらは火にくべられて当然である」注によれば、似たような台詞は他にもあるらしい。非読書家の目から見た書籍なんてこんなものなのかもしれない。著者の愛書癖(?)は壮絶の一語。
◎マリオ・バルガス・リョサ著/工藤庸子訳『果てしなき饗宴−フローベルと「ボバリー夫人」』(筑摩叢書1988/3)*「ボバリー夫人」に魅せられて作家となったラテンアメリカ文学の精鋭が、「ボバリー夫人」の魅力から表現や構成までを、想像力豊かに展開した文芸評論。サルトル著の「家の馬鹿息子」への評が厳しいが頷ける。二部と三部の作家による詳細で具体的な作品論は、小説の読み方として大変に参考になる。「ボバリー夫人」をテキストにした現代文学入門書である。
◎チュ・シー・チェ/マルセル・アイザック他共著/長島裕子訳『アジア文化紀行−ベトナム料理』(チャールズ・イー・タトル出版2002/10)*第1部:ベトナムの食べ物、第2部:ベトナムの台所、第3部:ベトナム料理の作り方。サイゴンにあるフローティング・ホテルのシェフのレシピと調理がグラフィカルにずらり、カラー画像が豊富で美しい。
◎トラン・ティ・ディエップ著『エスニック ダイエット ベトナム料理』(保健同人社2002/11)*料理担当の著者はかつてボートピープルとして日本に来た人。<米のちから><野菜のおかず><肉・魚介のおかず><おやつ>大きく分けて4部構成、米を主食にして副食を添えるベトナム料理の組み立ては和食とよく似ている。
◎伊藤忍/福井隆也共著『ベトナムめし食楽大図鑑』(情報センター出版局2006/8)*ベトナム現地に取材した旅のグルメガイド、<朝ごはん><昼ごはん><おやつ><夜ごはん>の4部構成、お店のメニュー名で画像を整理、メニューの特徴を紹介している。各ページが雑誌のグラビアページのようなレイアウト、レシピが付いていない食べ歩きガイド。
◎三浦行義/大野尚子共著『ベトナム家庭料理入門−台所にあがりこんで教えてもらった味』(農文協1996/10)*全6章構成のうち第5章がメインで50種類のレシピを紹介している。<スープ・鍋料理><サラダ・和え物><米粉皮料理><おかず・酒肴><シーフード料理><ご飯・麺・パン><デザート>に分けて紹介、写真は付いていてもモノクロ、写真がないレシピも多い、全体が文章に多くを頼った構成、好みが分かれるだろう。説明の文は分かりやすい。
西條八十著『西條八十全集1−詩1』(国書刊行会1991/12)*西條八十の初期詩集「砂金」「見知らぬ愛人」「美しき喪失」の3部を全編収録、ホップ、ステップ、ジャンプの3段飛びで象徴主義手法による幻想詩人としての地位を確立した頃の全貌が読み取れる。90年前の詩篇だが今なお古びていないフレーズが随所に輝いており、時代を超える才能の煌めきが眩しい。 (画像は西條八十生誕100年記念の全集1巻目の瀟洒なクロスの表紙、凹版の植物模様が美しい)
浅田次郎著『蒼穹の昴(上) 』(講談社1996/4)*清朝末期の中国の権力闘争を、複数の視点人物を通して描き上げた重みのある時代小説、あえて宦官になることによって貧農からの離脱をはかる春児を一つの視点に据えた着眼は見事、広大な中国大陸のサイズを背景にして物語が進行するので、読んでいてワクワクする。物語のスケールの大きさと奥深さが愉しみ。