武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 1月第2週に手にした本(9〜15)


*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。
◎磯山雅著『バッハ―カンタータの森を歩む1―マリアの3祝日』(東京書籍2004/4)*最近バッハのカンタータをまとめて聴いているので、勉強のため手に取った。退屈だと思っていたレチタティーヴォの音楽的評価と意味づけについて、貴重な示唆をいただいた。宗教音楽に如何に接近したらいいか教わることの多い好著。
上林暁尾崎一雄瀧井孝作著『筑摩書房版・現代文学大系31上林暁尾崎一雄瀧井孝作』(筑摩書房1965/12)*私小説(心境小説)系の作品に触れたくて、Bookoffで105円で入手、情景描写と主人公の心理描写に力点を置いた随筆風の読み物として読むと、なかなか深刻で面白い。怖いほどに遊びのない真剣さが読んでいてチトしんどい。
小林秀雄著『筑摩書房版・現代文学大系42小林秀雄』(筑摩書房1965/5)*私小説論と幾つかの作品論が読みたくて、これもBookoffで105円で入手、今読んでも、戦前の論考の先進性の抜きんでていたことにやはり目を瞠るものがある。戦後の豊かな収穫をじっくり愉しみたい。
小宮山博史編『タイポグラフィの基礎―知っておきたい文字とデザインの新教養』(誠文堂新光社2010/8)*文字を組み込んだデザインについての歴史的知識と、タイポグラフィの現状と今後について知りたくて、ビジュアル多用の本書を手にした。多数の執筆者と情報の詰め込みすぎで、読み辛いので、見て愉しんだ。
◎内掘弘著『石神井書林日録』(晶文社2001/10)*近現代詩を愛好する方にはよく知られたカタログによる通信販売のみの詩集専門のユニークな古書店石神井書林のご主人の随想録。<日録>とあるように某月某日で区切られた味のある短文が緩いテーマごとに集められている。近現代詩に興味のある人には、この書林の発行する250ページを越える目録を読む愉しみとともに、店主の奥深い見識を知る大きな手掛かりとなる。達意の文章で綴られた古書店譚が面白かった。面白いフレーズがあった。いわく「よく古本屋のオヤジに変な人が多いと言うが、古本屋に来るお客さんにはかなわない」、きっとそうだろう。
◎中村稔著『中村稔著作集1詩』(青土社2004/10)*この詩人の良い読者ではなかった。目を射るような目覚ましいフレーズを意図的に押さえたような、少ない振幅の言葉が渋く端正に並び、繰り返し読むと味わいが深まる。一人称の<私>が詩の中に顔を出すタイプの作品に、焦点が定まった秀作が多い。
西條八十著『西條八十全集3詩Ⅲ叙情詩』(国書刊行会2000/12)*八十は大正の後半から戦後の一時期まで、若い女性向けの雑誌向けに600篇を超える叙情詩を書いた、これはその集成。何冊もの詩集にまとめられ、ほろぼろになるまで愛読されたという、20世紀前半の乙女心を大衆のレベルで表出した最も八十らしい仕事の一つと言えよう。今読むと純粋詩以上に自在でのびのびしていて、言葉に生彩がある。人気のあった所以であろう。リクエストに応えて、要望通りの詩を紡ぐことができた数少ないプロの詩人だった。
西條八十著『西條八十全集4詩Ⅳ時局詩・少年詩』(国書刊行会1997/5)*思い起こせば八十の青年期壮年期はこの国の戦争と共にあった、本書には戦意高揚を目的とした戦争詩篇が多数収録されている。読むと、取材の広さ深さ、使われている言葉の巧みさ、構成と展開の鮮やかなこと、片手間の仕事ではない。広く愛読され、時代が求めた理由も肯ける。資料として貴重な1巻である。