武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 3月第4週に手にした本(21〜27)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。

冲方丁著『天地明察』(角川書店2009/11)*江戸時代の前期に活躍した囲碁棋士で天文暦学者の渋川春海を主人公にした時代小説、著者の想像力を自由に羽ばたかせた割合が大きいので伝記的な歴史小説とは言い難いが、そこがこの物語の面白さのポイント。主人公の青年期から壮年期を、大和暦の作成と採用を柱に、天文観測、和算囲碁勝負などのエピソードと多彩な人物を巧妙に配置したプロットが素晴らしい。読後感もよかった。
◎大熊由紀子著『「寝たきり老人」のいる国いない国』(ぶどう社1990/9)*介護保険創出にむけた一連の動きに一定の役割を担った海外介護事情ルポ、具体的な事例を前面に出した記事に力がある。1章が老人介護問題、2章が障害者のノーマライゼーション、3章が国内の事例ルポ、著者の素直な驚きの感覚とともに記述されているところが本書の説得力の基になっている。
ジャレド・ダイアモンド著/倉骨彰訳『銃・病原菌・鉄/上』(草思社2000/10)*人類史における重要な疑問点に、広範かつ最新の知見を駆使して取り組んだ、啓蒙的な世界史読本、次々と紹介される学説が分かりやすく、好奇心が躍り上がって歓ぶ。奥行きのある啓蒙書の伝統から生まれてきた歴史書の傑作。
ヴィスワヴァ・シンボルスカ著/沼野充義訳解説『終わりと始まり』(未知谷1997/5)*ポーランドの現役女性詩人、磨き抜かれた力のあるフレーズに出会う幸福が味わえる。例えば、「なにごとも二度は起こらない/けっして だからこそ/人は生まれることにも上達せず/死ぬ経験を積むこともできない」(解説より)気に入った詩句がいくつも見つかった。とりわけ<空っぽなアパートの猫>という詩が胸を打つ。