武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 8月第2週に手にした本(8〜14)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。(今週もたくさんの本を手にしたが全部読了できたわけではありません。)

桜庭一樹著『紅朽葉家の伝説』(東京創元社2006/12)*鳥取県の富豪旧家を舞台に、戦後現代史を絡ませて、三世代の女主人の生き様を鮮やかに描き出した、言葉による絵巻物。縦横無尽に物語を紡ぎ出す著者の語り口に感心した。読み終わった時、自分が生きてきた現代を、改めて振り返って見たくなるような、不思議な読後感が湧き上がってきた。著者が新たな境地に辿り着いた力作長編。
杉浦日向子著『百物語』(新潮文庫1995/11)*杉浦日向子さんの最後の江戸時代漫画、99編の短編怪談集、怪談に使われるあやかしの表現は、時代を移す鏡である。杉浦さんは、見事に江戸時代の人々の発想を我が物として、自在にこの物語を紡ぎ出した。読み進んでいくと、読み手がいつの間にか江戸時代の情緒に包み込まれる感じがする。これほど江戸を感じさせる読み物も珍しいのではないか。絵の上手さ、カットの多彩さは、鬼才と評したくなるほど素晴らしい。
◎鳳晶子著『みだれ髪』(東京新詩社/明治34年8月)*日本近代文学館による新選名著復刻全集の1冊、古書店の廉価本コーナーで見つけて思わず手にした。短冊形の瀟洒なブックデザインに目を瞠った。明治34年にこの歌集を書店で目にした人々にとって、如何に新鮮な装丁と内容だったことだろう。歴史的な名著を、当時の形のまま手に出来るこうした出版は実に有り難い。
米原万里著『真昼の星空』(中公文庫2005/1)*読売新聞の日曜版に連載されたエッセイ集、短文が80編収録されている。短文の制約を逆手に、切れ味鋭く、ウィット富んだオチを随所に配置して、見事というほかない。一気読みすると勿体ないので、ちょっとした合間の時間に手に取り、楽しんでいる。
山手樹一郎著『素浪人日和』(講談社山手樹一郎全集14/1961/4)*物語はよくある大名の世継ぎをめぐる内紛に巻き込まれた人々を描いたもの、会話による巧みな展開と、生き生きとして艶っぽい女性の登場人物の巧みな描き方など、読んでいて気持ちが長閑になってくる。殺陣の画面で数名命を落としてしまう場面があるのは、この作者にしては珍しいが、殺伐とはしない。全集の一部を入手したので、少しずつ読み進めていきたい。