武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 8月第1週に手にした本(1〜7)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。(今週もたくさんの本を手にしたが全部読了できたわけではありません。)
◎ピエール・バイヤール著/平岡淳訳『シャーロック・ホームズの誤謬―「バスカヴィル家の犬」再考』(東京創元社2011/6)*シャーロック・ホームズシリーズの最長の長編にして最高傑作との世評の高い作品を、徹底的に読解、ホームズの推理の弱点を暴き、物語の構造から導かれる真犯人を推理するという何とも大胆な、著者言うところの推理批評の一冊。フランス風のエスプリでホームズ独特の性格の悪さを浮き彫りにしていくところなど、見事というほかない。批評をエンタテイメントの域にまで持って行った筆力が凄い。
◎中村孝義著『室内楽の歴史―音による対話の可能性を求めて』(東京書籍1994/9)*本格的な室内楽の通史、時代区分と主要音楽家の組み合わせがバランス良く、記述も丁寧で、室内楽を広い視野で捕らえたい時、手元に是非置いておきたい好著。西洋音楽の流れの中で、室内楽の系譜が占めている意味の重さを力強く語って説得力がある。
新藤兼人著『愛妻記』(岩波書店1995/12)*音羽信子さんと最後の1年を共に生きる新藤監督の強靱な精神力が、文体の背後に漲っており、圧倒される。新藤監督の逞しい文章力に何時も感心してきたが、本作の揺るぎない文体は凄い。素晴らしい介護記録文学である。
稲見一良著『セント・メリーのリボン』(新潮社1993/6)*鮮明で緻密な自然描写は、俳句的な自然の情景描写を超えて、ハイビジョン画像のように鮮明な世界を描いて、読ませる。きっちりピントがあった情景をバックに、芯のある苛烈な男のドラマが展開する。男と男の意地が火花を散らしてぶつかり合う瞬間が何とも格好いい。亡くなる1年前までの晩年の作品集、もっと読みたかった。
◎上田秀人著『御免状始末―闕所物奉行裏帳合(一) 』(中公文庫2009/11)*闕所物奉行という江戸時代に実在した職業を舞台に、榊扇太郎という若き貧乏御家人が、剣と仕事を通して成長して行く、政治的陰謀をからめた剣豪時代小説。錯綜する陰謀を解きほぐすことにウエートを置いて、色模様はほとんどなしと言うところが話をスッキリさせている。この行き方には好感が持てる。