武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 7月第3〜5週に手にした本(15〜8/4)

*いろいろなことがあったが、暑さで頭がぼんやりしていて、近況をまとめて記述する元気がでてこない。患っている訳でもないのに情けない。例によって沢山の興味ある本を手にとってみたけれど、図書館の本は読みかけで返却、購入した本は横にしたまま積み上げてある。年とともに暑さの影響が強く出るようになったのかも知れない。だがこれからが暑さの本番、元気にやろう。

開高健著『特装本 夏の闇』(新潮社1972/5)*発行から40年以上もたって、フランス装のページを切ってない美本が手に入るなんて、ネットの普及はまことにありがたい。20代の頃に初めて読んで以来、何回読み返したかわからない。いつでもどこかから、読むことの楽しみを必ず得られるからこそ、繰り返し読んできた。書庫を探せば何冊か出てくると思うが、この特装本で買い増すのは打ち止めにしたい。

吉田秀和著『吉田秀和全集6/ピアニストについて』(1975/4)*吉田さんの音楽評論の中でもっとも批評が的確で説得力に富むのが、ピアノ演奏についての批評ではないだろうか。文体に自信があふれ、行間から聴く喜びが零れてくるような味わいがある。もう一冊「一枚のレコード」も収録されており、このレコード評にもずいぶんお世話になった。コンサートではなく、レコードで聴く楽しみ方を教わった。

吉村昭著『長英逃亡(上)』(毎日新聞社1984/9)*近所のブックオフに最近この吉村昭の古い単行本が、廉価で並ぶようになった。見つけたらできるだけ買うようにしている。この高野長英の脱獄逃亡記、緊密な冒険小説としても十分に楽しめる。心情の表現や情景描写に禁欲的な文体が冴えて、ハードボイルドな歴史小説に仕上がっている。三人称記述ではあるが、中心人物が揺るがないので、感情移入はし易い。吉村昭のもっとも油がのっていた時期の力作。

◎桑野幸徳著『新・太陽電池を使いこなす』(ブルーバクス1999/3)*3.11を経験した今となっては、どの資料もいささか古い感じが否めないけでど、太陽光発電についての啓蒙書としては、いまでもよくできている部類にはいる。著者は、この国では自宅に初めて太陽光発電システムを導入した人とのこと、家庭用の太陽光発電の説明に力点が置かれている。システムの考え方は今でも変わらない。

エドワード・W・サイード著/今沢紀子訳『オリエンタリズム』(平凡社1986/10)*東洋に対する西洋の覇権主義が、経済構造や権力構造のみならず文化や芸術の領域にまで根を張っている歴史的事実を、克明に追求した文明論の力作。西洋の自意識の徹底ぶりに感心する。いつの間にか自分の中に内面化してしまった、西洋的視点を相対化するには絶好の本だけれど難しかった。

八木福次郎著『新編古本屋の手帳』(平凡社ライブラリー2008/10)*神保町で70年も古本屋に携わってきたという著者の薀蓄に感心するのみ。冒頭の「神保町むかしといま」が力作、店主として付き合いのあった文化人のエピソードも愉しい。最近、古本屋さんの本を手にすることが多いのは、外れが少ないから。