武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 8月に手にした本(8/5〜9/1)

*いつかは涼しくなると分かってはいるものの、今年の猛暑にはまいった。武蔵野にはほとんど雨が降らないので、畑の土は乾ききって農作物は干上がりかけている。夏に強いはずの夏野菜も元気がない、根元に水を撒いても文字通り焼け石に水状態。激しい夕立が降っても、しばらくして行って見るともう乾いている。異常気象というほどではないにせよ、武蔵野では動植物みな酷暑に喘いでいる。高齢者が参るのもいたしかたないか。

◎甲斐大策著『神・泥・人』(石風社1992/1)*「アフガニスタンの旅から」とサブタイトルにあるように、これは著者が20年もの長きにわたってアフガニスタンを繰り返し訪れて、深く現地の風土と暮らしに潜り込むようにして見聞したことを記録した、入魂の紀行文。紛争地帯となってしまった地域にどんな現地の暮らしと歴史があったかを思うと、紛争が破壊してしまうものの重さに呆然となってしまう。著者の旅は、著者の人生そのものと化している。こういう旅は切ない。

◎クライブ・パーカー著/宮脇孝雄訳『ミッドナイト・ミートトレイン』(集英社文庫1987/1)*猛暑にくたびれてきたので久しぶりに気になっていたホラー短編を手にした。よくできたホラーには、物語のための物語といった吹っ切れた楽しさを期待する。この作者にはそんな期待にこたえようとする気概を感じた。夏の夜のひと時を、ぞくぞくする架空譚を読んで過ごすのも一興。

◎竹内実/萩野脩二共著『閑適のうた/中華愛誦詩選 陶淵明から魯迅まで』(中公新書1990/10)*閑適すなわち暇人あるいは世捨人の心境を主題にした漢詩選、竹内実の日本語訳についは以前に紹介したように、漢文にこなれきった和語をルビ付けした面白い工夫がなされ、漢字の雰囲気と和語の味が共鳴して、興味深く読める。退職者の心境に見事にフィットする詩篇が多く、共感するものがたくさんある。帰去来の辞が白眉。

◎大場信義著『田んぼの生きものたち・ホタル』(農文協2010/9)*最近、ヘイケボタルを見たこともあり興味がわいて、図書館の児童図書からこの本を見つけた。ホタルをとりまく環境が崩壊してホタルが減ったということは、ホタルそのものだけでなく、幼虫のえさになるカワニナなどの小さな水生巻貝も、その餌も、水辺のなにもかもが絶滅危惧種のなっていまっている実情に、愕然とした。絶滅が危惧されるということ自体、環境が危機にさらされているということ。小さな命を見つめる意味は小さくない。