武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 9月第1週に手にした本(9/2〜9/8)

*ちゃんとした雨が降って、やっと季節の変わり目にきたことが分かるようになってきた。武蔵野でも、一雨ごとに早朝の気温が下がり始めた。そのせいか集中力を必要とする本にも手が出せるようになってきた。夕方になるといっせいに虫たちが鳴き出した。耳を聾するような音響だが騒音という感じはしない。

ジェフリー・アーチャー著/永井淳訳『百万ドルをとり返せ!』(新潮文庫1977/8)*コン・ゲーム(信用詐欺)小説の傑作、悪漢小説のお手本のような痛快な物語。久しぶりの読み返し、耐え難い猛暑の不快感を一時的に忘れさせてもらった。登場人物の性格作りの巧みさ、ストーリー展開の鮮やかさ、物語を読む楽しさを堪能させてしかも読後感が爽快。「1ペニーも多くなく1ペニーも少なくなく」という奪還プロジェクト名が原作の題名、個人的にはこちらの方がはるかに気が利いている思うが・・・。

◎渡辺佳延著『サルトル、世界をつかむ言葉』(トランスビュー2013/8)*青年期の知的ヒーローの一人だったサルトルからは、実にたくさんの知的興奮をもらったことを、久しぶりに思い出して愉しかった。1904年に誕生1980年になくなるまでの、波乱に満ちた20世紀を何と颯爽と生き抜いた人だったのだろう。簡潔にまとめられた本書を読み改めて感心した。サルトルを読み返したくなったが、その気力体力に欠ける今の自分を振り返り苦い思いがわいてきた。桂川さんの軽妙なイラストが本書をうまく引き立てている。

◎J・スタロバンスキー著/速水洋太郎訳『モンテーニュは動く』(みすず書房1993/12)*繊細で難解だが、現代風にモンテーニュを読み解くためのすぐれた力作評伝。親友ラ・ボエシとの友情とその死をめぐる記述は、モンテーニュの自己確立を描き出して見事、この部分だけでも読む値打ちがある。

◎グレア/ドッド著/関本博英・増沢和美訳『1934年版証券分析』(パンローリング2002/10)*投資家のバイブルなどと呼ばれるだけあって、1000ページ近い浩瀚な書物、資産運用について調べていて本書にたどり着いた。前書きに、本書は専門家のためのもので<証券と財務に関する基礎知識>が必要という脅し文句があったが、ど素人の私が読んでもかなり参考になる、当たり前のことが書いてある。一日の百ページずつ気楽に読んでいる。

小林信彦著『紳士同盟』(新潮社1980/3)*愉しい日本版コン・ゲーム小説、今読み返してみると、洒落たストーリーもさることながら、著者の諧謔精神の横溢した生きのいい文体が躍動してすばらしい。1947年というこの国がまだ若かった戦後まもない頃の時代設定もうれしい。著者にとってもっとも油がのりきっていた時代の作品。