武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 6月第1週に手にした本(3〜9)

*気象予報ではすでに入梅らしいが、ほとんど雨の気配が感じられない週だった。畑の作物たちは、必死に雨の恵みを求めている。気圧配置の枠組みは梅雨型のパターンになっていると言うが、もどかしい限りである。北アフリカサハラ砂漠の気候を思い出しながら、雨乞いの風習に思いをはせた。

 ◎ケン・フォレット著/戸田浩之訳『巨人たちの落日(上)』(ソフトバンク文庫2011/3)*冒険小説書きの名手の手になる、西洋産業資本主義社会の推移を背景にした、大河歴史小説。この第1巻を読んだ限りでは、舞台をイギリス、ロシア、アメリカ、ドイツ、フランスなど多くの国に広げすぎているような印象を受けるが、中下巻でどうなるか愉しみ。いつものことだが、颯爽と主体的に生きるヒロイン達の動きから目が離せない。

◎原二郎著『モンテーニュ/エセーの魅力』(岩波書店1994/6)*モンテーニュの随想録の全訳で知られる著者の、丁寧なモンテーニュの評伝。大半のページが、エセーの解釈と鑑賞に当てられており、エセーの手引書として読むといい。著者による岩波文庫の全6巻の翻訳が、しばらく絶版になっているのが惜しい。

◎松永吾一編『土とふるさとの文学全集第14巻』(家の光協会1977/2)*明治・大正・昭和の近現代史から、風土と農業にかかわる詩作品を、網羅的に収集して、<村の四季><農の歴史><記憶の底に><闘いの日々><危機を叫ぶ>などのテーマの下に整理された画期的な詩集。この国の近代を背後から支え、今なお支え続けている農業者の言語表現は、商品としては流通しにくいので人の眼に触れる機会は多くない。全集の1巻から抜き出して、単行本として書籍化してほしい気がした。

◎ライザ・ダルビー著/岡田好恵訳『紫式部物語/その恋と生涯(上)』(光文社2000/11)*本書の著者が初めて源氏の世界に引き込まれたアーサー・ウェーリーの英訳源氏と同様、異邦人によって書かれた紫式部歴史小説は、読んでいて随所に軽いカルチャーショックが潜んでいて、とても愉しく読める。詳細な下調べがなければ書けない世界であることは、日本人であろうとアメリカ人であろうと変わりはない、どこまで踏み込めているかが評価の分かれ目だろう。大胆な想像力の小説的飛躍を私は愉しんだ。