武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

[本の備忘録 9月第2週に手にした本(9/9〜9/15)

*我が家では、夏になるとヤモリが出没する。ヤモリが現れて室内に入り込んだ羽虫たちがきれいさっぱりいなくなる。多分ヤモリが食べてくれているのだろう。ところが今週の深夜、寝ていた私の腕を這っていたので、反射的に振り払い驚かせてしまった。朝起きたら、布団の下で、平らになって死んでいた。逃げ込んだ場所がまずかった。可愛そうなことをした。

◎大森澄著『ふうてん老人行状記』(八小堂1999/10)*長年探していた本が見つかるのは嬉しい。元巡査にして詩人だった著者の随筆集、80歳を越えた方とは思えないほど文章に張りがあり、文体が艶かしい。文章の終わりを粋なオチで締めてあり余韻を残して閉じている。昔の巡査としての職業から得たものか、世の中や人情の捕らえ方に独特のものがある。随所に引用してある著者の詩篇が光彩を放っているのも嬉しい。内容は、前半が<巡査の記憶>、後半が<後家くどき>、個人的には前半の人間観察の佳作が好みだが、後半のフウテン老人振りが愉しい。

堤未果著『ルポ貧困大国アメリ』(2008/1)*レーガン政権以降のアメリカの新自由主義経済が、アメリカ社会に何をもたらしてきたか。中間層は貧困層へ、貧困層は最貧困層への巨大な流れが、庶民の生活をどのように変えつつあるか。教育や医療など、鮮やかな切り口からその実態を伝えてくれる現代アメリカ社会が抱える悪夢。明日はわが身として読むと背筋が寒くなる。貧困層の拡大が、新自由主義経済の利益の源泉になっている実態には吃驚した。ワーキング・プアが日本経済の一翼を支えつつある現実がダブル。

◎渡辺佳延著『サルトル、存在と自由の思想家』(トランスビュー2013/8)*波乱に満ちたサルトルの生涯が、その業績を振り返りながら丁寧にまとめられている。挑発的な発言で世界の耳目を引き付け続けた生き方が、簡潔に要約可能なまでになった。過ぎ去った時代を振り返って見ると、その頃には見えなかったものが見えてくる。時代の移り変わりを実感する読み物だった。<実存主義>は死語に近い言葉になった。

◎矢口新著『生き残りのディーリング』(東洋経済新報社1990/10)*長年にわたり証券会社で投資の現場で仕事を続けてきた方の、生々しい投資についての解説書。入門書ではないので、見慣れない難語句をとばしながら、投資の世界の分からなさを改めて再確認した。きびきびした文体が、相場の世界を身近に感じさせてくれるような気がした。

◎アントニン・レーモンド著/三沢浩訳『自伝アントニン・レーモンド』(鹿島出版会2007/9)*この国にも大きな足跡を残した、著名な建築家の自伝。ある方のブログで、東京大空襲の戦術立案にかかわる実験に協力したことがあることを知り、手にとって見た。生涯をひたすらに建築にささげた人のゆるぎない生き方に感心するしかなかった。豊富な図版と写真があるので、とても分かりやすい。