武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 9月第5週に手にした本(26〜2)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。(今週もたくさんの本を手にしたが全部読了できたわけではありません。)

◎ジェイ・マーティン・グールド著/肥田舜太郎・斉藤紀・戸田清・竹野内真理共訳『低線量内部被爆の脅威−原子炉周辺の健康破壊と疫学的立証の記録−』(緑風出版2011/4)*癌と喫煙の関係のように、疫学的な手法でしか認識できない因果関係がある。原発由来の微量の放射性物質も同様、緻密な疫学的な調査によって、人体への破壊的な影響がようやく浮き彫りになる事象である。3.11以来、福島第1原発方からの環境影響を評価するうえで、欠かせない参考資料のように思われた。間接資料ではあるが、この国の明日が心配でならなくなった。原因不明の下痢や鼻血などの現象が東北から報告され始めるのはいつからだろう。
皆川博子著『妖櫻記(上)(下)』(文藝春秋1993/3)*南北朝後期を舞台にした伝奇時代小説、皆川さんの<妖>のつく虚構世界が好みで手にした。長編の骨格となる主要登場人物たちの線がやや細いためか、筋立てがやや平板な感じがした。耽美的な皆川流の幻想シーンが随所に散りばめられており、その点では期待通り愉しめた。
戸井十月著『ユーラシア横断3万キロの日々−4大陸10万キロの記録/道、果てるまで』(新潮社2011/4)*以前から戸井さんの世界バイク紀行を愛読してきた、今回が12年間の4大陸シリーズの締めくくりに当たる。過去の3大陸冒険旅行の回想を交えながら、3万キロの旅の出来事を語ってゆくので、見聞に奥行きが加わり、戸井さんの旅のスタイルの成熟ぶりを堪能した。帯に「また、ゼロから始める」とあるように、戸井流バイク旅行記の里程標だろう。もう一度最初の「越境記」から読み返して見たくなった。
◎今村光一著『アメリカ上院栄養問題特別委員会レポート−いまの食生活では早死にする/自分の健康を守るための指針』(タツの本2002/8)*現代人の食生活に警鐘を鳴らす<食育>関連本の一冊、ある切っ掛けでアメリカ上院栄養問題特別委員会レポートに興味がわき、原本では大部なので抄訳という触れ込みに惹かれて手にした。多様な栄養情報を詰め込んであり、新書サイズとしては情報量が多く、読み応えがあった。
肥田舜太郎著『被爆軍医の証言/広島の消えた日』(日中出版1982/5)*自ら広島原爆で被爆被爆者の治療に当たった医師として、その後核廃絶を訴え続けている著者の、広島原爆を主軸にした自伝的ルポ、半分以上が軍医としての務めた広島陸軍病院での記録<広島の前夜>、そして原爆体験を綴る<広島の消えた日>、体験したことの重みは、いかなるリアリズムをも凌駕するとしか言いようがない。福島に警鐘をならす肥田氏の原点ここにあり。
多和田葉子著『ユリイカ総特集多和田葉子』(青土社2004/12)*ドイツ語と日本語の両方で旺盛な創作活動を展開している、バイリンガル作家、鋭敏で繊細な遊び感覚とでも言うしかない多和田さんの言語空間を鳥瞰的にとらえる試み、拾い読みしながら愉しむムック的一冊。