武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『インドの衝撃、続・インドの衝撃』 NHKスペシャル取材班 (発行文藝春秋2007/10、2009/01)


 NHKスペシャル「インドの衝撃」シリーズには、よほどの反響があったのだろう。最初のシリーズが放映されたその年に、早くも文春から書籍シリーズの第1作が発行されている。これまでもシルクロードをはじめ多くの番組で繰り返されてきた映像→書籍へと展開するビジネスパターンだが、その意味を、これまでよく考えたことがなかった。
 今回たまたま「インドの衝撃」にハマッタこともあって、TVで放映された<映像編>と本にまとめられた<文章編>の両方に触れてみて、メディアが違うと同じ素材でも、伝えられる内容と伝わって来る内容に、とても大きな違いがあることを実感した。
 <映像編>もそれ自体大変に面白かったが、2冊にまとめられた<文章編>の方も、映像編には盛り込みきれなかった記者やディレクターなど現場で取材にあたった方々の苦節と驚愕を織り込み、映像にはない奥行きのある内容となっている。どちらかというとブッキッシュぎみの私にとっては、文章編の2冊の方がむしろ面白い気がしたので、こちらの方も簡単に紹介しておきたい。
 3年にわたるシリーズの中で書籍化されたのは、1年目と2年目分である。2007年1月の放映分が正編にまとめられて10月に発行され、2008年7月の放映分が翌2009年1月に続編としてまとめられた。手際が良いというか商売上手というか、ルーチン化されたNHKビジネスもなかなか見事ではある。
 正編と続編をざっと眺めた印象では、取材者の興味関心や意図、気持ちの動揺などを意味や感情を動員して総合的に伝えるとなると、やはり文章がもつ伝達力はなかなか侮れないという実感だった。映像編では伝わってこなかったものがふんだんに盛り込まれており、ルポルタージュを読む楽しみを十分に味わうことが出来た。
 編集方法にも工夫が凝らされていて、コラムや<衝撃の深層>と題するコラムが挿入され、章立てられた記事の構成と流れの側面から、少し視点を変えてテーマを補足するというスタイルが生きていると感じた。映像の場合、たたみかける映像の流れを中断することには無理があるが、文字の特性を生かした複眼的な構成がこの本の広がりと奥行きを作り出している。
 映像の場合、映っている映像と音声が総てだが、文章には映像に映っていないもの、映像の向こうとこちら側も表現できる自在さがある。圧倒的な映像の存在感を、ときには凌ぐ表現力を文章が持つことを実感できたのは楽しい発見だった。
 インドの現実が持つ衝撃的な内容については、本書を繙いてもらうことにして、以下に書籍版<インドの衝撃正続編>の目次を引用しておこう。

≪インドの衝撃の目次≫
  はじめに
Ⅰ わき上がる頭脳パワー
1章 世界の注目を集めるインド人の頭脳
2章 MITより難関?超エリート大学IIT
3章 ネルーの夢「頭脳立国」
   コラム−算数を大好きにさせるインド教育
4章 頭脳を武器に成長するインド企業
   コラム−先進国の雇用を脅かすインドの人材
5章 トタン屋根の予備校
   衝撃の深層−インド人は賢いのか
Ⅱ 十一億の消費パワー
1章 世界が震撼する「新中間層」の消費パワー
   コラム−変わるインドの女性たち
2章 MBA軍団が率いる巨大スーパーの挑戦
   コラム−ワインを飲むのはステイタス?
3章 地方にも波及する消費革命
   コラム−見直される偉大な魂、マハトマ・ガンジーの思想
   衝撃の深層−インド経済は本物か
Ⅲ 台頭する政治大国
1章 アメリカを譲歩させた外交大国
2章 インドvsアメリカ核を巡る攻防
3章 在米インド人、水面下の活躍
   コラム−活発化する在米インド人のロビー活勤
4章 そしてアメリカは妥協した
   コラム−「米印原于力協力」の衡撃と、その行方
5章 コットンベルトは自殺ベルト
6章 なぜ農村は貧しいままなのか?
7章 成長の足かせとなった農村
   衝撃の深層−インドは大国になれるのか




≪続・インドの衝撃の目次≫
  はじめに−インドの「ショウヘキ」
Ⅰ “貧困層”を狙え
第1章 貧困市場に目をつけた世界企業
第2章 子供の習慣を変えろ
第3章 女性の力で農村を開拓
    コラム−「インドの壁」に挑む日清 
第4章 電子集会所という新ビジネス
第5章 究極のWin‐Winビジネスは世界を狙う
    コラム−百花綾乱、貧困層向けビジネス
Ⅱ 上陸 インド流ビジネス―日本を狙う“製薬大国”
第1章 製薬大国からの黒船
第2章 インド製薬パワーの秘密
    コラム−揺れるコピー薬大国、インド
第3章 ルピンの経営術
第4章 猛烈営業マンに見るインド流ビジネス
    コラム−子供の頃から鍛えられるインド式交渉術
第5章 ルピンを迎えた共和
    コラム 日本人から見たインド流ビジネスあれこれ
Ⅲ “世界の頭脳”印僑パワーを呼び戻せ
第1章 世界をリードする印僑パワー
第2章 「シリコンバレーゴッドファーザー
第3章 驚異のインド人起業家ネットワーク、TiE
第4章 祖国インドに向かい始めた印僑たち
    コラム−アメリカ&インド印僑人材をめぐる争い
第5章 加熱するトップ印僑の人材争奪戦
第6章 インド式起業は日本を変えるか

 インドに興味のある人には、映像編とあわせて、是非この2冊もお勧めしたい。