武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『清く正しい本棚の作り方』(TT)戸田プロダクション著/スタジオ・タック・クリエイション発行/2009・11


 増えすぎた蔵書の死蔵を解消すべく、第二の書庫のための空き家を探していた頃、設置する本棚についてもどうしたらしいか手探りしていて本書に遭遇した。図書館から借りて一読、まれにみるハウツー本の良書なので、直ぐにネットでさがし購入したもの。

 あらゆるものが市販されていて、優れた商品がどうしてこんなに安く販売できるのか不思議に思うことが多い時代だが、中にはピッタリのものが市販品の中から見つからず、特注するとあまりに高価となり、自作するしかない物がたまにある、本棚はまさにそれ。その本棚作りだけに特化したのが本書の内容。

 だが、よく読んでみると、ひたすら本棚作りだけについて書かれてはいるが、すべての物作りに通じるプランの練り方、道具の使い方、安全で確実な作業の進め方などなど、手作りに欠かせない作業の基本の記述に、何事にも通じる普遍性が読み取れるのである。
 手作りすることの喜びと何度も繰り返したであろう苦い失敗、文脈の背後に潜んでいるであろう、そんな体験なしに本書は成立しなかったと思われる、味わい深いものを感じるのは、個人的な深読みではないはず。

 amazonの本書のページに詳細な目次があったので、以下に引用しておこう。

第1章 薀蓄編/1.我々はなぜ、本棚を「自作」するのか? 2.自作本棚のメリット 3.イメージを固める!
第2章 設計編/1.詳細設計 2.全体図の描き方 3.木取り図の描き方
第3章 材料編/1.材木屋に行こう! 2.建具屋で切ってもらおう! 3.ホームセンターに行こう!
第4章 組立編/1.組み立て前の下準備を行なう 2.いよいよ組み立て作業を開始する! 3.仕上げ作業
第5章 塗装編/1.塗装工程の概要 2.下地処理(パテ盛りとヤスリがけ) 3.ペンキ塗り(下塗りと上塗り) 4.水研ぎと仕上げ塗り 5.最終仕上げ
第6章 設置編/1.本棚の設置方法 2.本棚の電装方法 3.規格化された本棚の並べ方
第7章 実践編/1-1板の材質と特徴 1-2木取り図を描こう/2-1建具屋に裁断依頼 2-2パネルソーとは? 2-3いよいよ裁断開始! 2-4職人の仕事 2-5ホームセンターのパネルソー/3-1工具と材料 3-2 便利道具と代替道具 他
第8章 資料編/1.奥行き145ミリタイプのパリエーション 2.本書第7章「実践編」の木取り図

 第7章以外は、著者のHPで公開されている内容だが、この実践編は豊富な画像では製作過程を再現してあるので、本のほうが自作初心者にも分かりやすいのではないか。

 個人的には、第1章で展開されている本棚についての著者の薀蓄(理念)が大変に興味深かった。特に、デザインやサイズの要所を規格化(標準化)するという発想が気に入った。私の経験では、自宅用に自作するために、その場その場の便宜を優先してしまい、場所が変わると使い物にならない応用のきかない専用品を作り無駄が多かったことを反省した。用途の本質を考え要所を標準化するという視点を欠いていたのである。極私的な個人製作だからこそ本質に根ざした普遍性の追求を怠ってはならないことを教えられた。

 年齢とともに蔵書は確実に増え続けるので、貴重な蔵書が死蔵の危機に直面している愛書家の皆さんには特にお勧めしたい。