武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 退職者の日々、第2段階へ(7)

 不動産(なかでも土地)という商品のもう一つの特殊性は、同じものが二つとなく、売りたいという人が現れなければ、商品自体が存在し得ないという条件があること。有り得ないことだが仮に、すべての不動産所有者が売る気がなくなったとしたら、不動産の売買自体が存在しなくなる。売りたくても売れないものがあったり、一つの物件に買い手が集中して抽選になったりする事態が生じるのはそのため。

 と言うことは、対象地域を絞り込むと、その地域で売りに出ている物件をほぼ見てしまうという手詰まり状態がやってくる。3ヶ月が過ぎた頃にもうこれ以上見て回っても仕方がないかなという状態になった。1年ほど時間をあければ、また事情が変わるかもしれないが、現状では、さらに見ておきたいものもなくなったので、100日以上かけて見てきた物件の中から、候補の物件を絞り込むことにした。そして、残された物件は二つ、それに優先順位をつけて、現地を案内してくれた営業の方に条件が合えば購入したい旨、連絡をとってもらうことにした。

 それにしても、最大の問題は価格である。不動産という商品が特殊なようにその価格も「公正な市場が存在しない」と言われ、「一物四価」とも言われるような特殊な価格構造をもつ商品と承知していたので、改めて何度も図書館へ通い不動産価格の勉強をやり直した。

 住まいの価格については、今の自宅を買う40年前にも考えたことがある。長く利用するとびっきり高価な一生に何度も経験しない特殊な買い物なので、日用品のような掘り出し物やお買い得品のことなどといった損得優待幸運などは期待せず、売り手も買い手も納得のいく<適正価格>だけを考えることにしたのはその時、今回も同じ考え方でいくことにした。得はしなくてもいいが、損もしたくないという考え方である。

 不動産価格の求め方には代表的なものが三つある。
一つ、固定資産税から逆算して求める方法、
二つ、売買事例から求める実勢価格方式、
三つ、その土地を利用して期待できる家賃収益から求める収益方法。
私たちにはもう収益は関係ないので、一と二の方法で購入希望額(適正価格)を試算してみることにした。

 素人なので、かなり概略的な計算式になったが、固定資産税額から逆算して、公示価格、路線価、実勢価格など、行政による公的な価格を試算してみた。現在暮らしている自宅で検算してみて、この方法は、案外実際に近い値が出ることも確認した。
 次に、候補地が属する町村と、隣接する町村すべてのここ数年の取引価格を検索、その算術平均値を参考にして実勢価格を試算してみた。この二つの計算結果は、意外にも近い値になったので、適正価格に近い数値が得られたという実感が得られた。これらの結果を計算書にまとめ、交渉の参考資料にすることにした。

 さていよいよ、候補にあげた物件への10項目の質問書とともに、購入希望書も作り、仲介の営業マンを通して、売主と直接交渉に臨むことになった。