武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 退職者の日々、第2段階へ(6)

 不動産の現地見学も件数が多くなると、自分が手に入れたい物件の概要が次第に固まってくるようだ。探し始めて100日が経過する頃あたりだったろうか。

 現住所になっている自宅は手放すつもりはなかった。40年近く暮らして子育てをしたので、子供たちにとっては故郷になる所でもあり、地域社会の友人隣人も数多い。自然災害に一度も見舞われたことのない武蔵野の一画には愛着も深い。

 ということで浮かび上がってきた物件の条件は次のようになってきた。言葉にできるところを五つの条件にまとめてみよう。
(1)探す空き家は自宅からそうは遠くない直線距離で100km以内あたりが良い。
(2)最近は温暖化のためか、7、8月の気温が大変に高くて年齢のせいか夏が辛くなってきたので、少し標高が高くて自然豊かな山村僻地で夏涼しい所が良い。
(3)死蔵に追い込まれている書物や、愛着のある品物が置いておける空間がほしいので、部屋数の多い広い住まいが良い。
(4)適度に敷地も広くて、隣家と密接していなくて、独立性が保てるような田舎の家が良い。
(5)価格的に退職者の少ない予算の範囲に収まってほしい。

 笑わないでいただきたい。退職者の第2の人生のステージ選びとなると、生涯を全うするまでの舞台選びに等しい。慎重かつ要求過剰になるのも無理ないではないか。自分のための不動産探しなんて、生涯に何度もあることではないうえに、一度選んで決めてしまうと、それ以降のQOL(生活の質)に大きく影響することなので、こんな欲張りな条件が並んでしまうのだ。この5つの条件をすべて満たす空き家は、果たして見つかるだろうか。

 ということで、繰り返すが住まい探しは長期戦になった。別荘でも競売物件でもない、普通の空き家で、距離と周辺環境を考慮して、築年数がそれほど古くないものに絞られてきた。地域も、ほぼ焦点化したきた。個人情報になるので、具体的なことは書かないが、上の条件を満たしているある特定の地域を集中的に探し回ることになった。