武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 NHKスペシャル・インドの衝撃


 昨年暮れに念願のインド旅行を実行に踏み切らせた切っ掛けの一つは、このNHKの特集番組「インドの衝撃」だった。いつかは行きたいとは思っていたが、幾多の尻込みするような情報に腰が引けて、延び延びになっていたものを、やっぱり行ってみたいという気持ちにさせてくれた番組だった。
 2007年から3年間にわたり、合計8回、ショッキングな映像が説得力をもってたっぷり流され、目が釘付けになった。全部をきちんと見ていたわけではないが、どれを見ても強いインパクトのある映像の連続だった。調べてみると、今でもネット上の動画で、その幾つかは見られるようだ。インドという国の実情を反映しているかどうかはとにかく、日本という国に暮らす私にとっては、実に刺激的な映像だった。
 2007年から2009年にわたってNHKスペシャルとして放送された[インドの衝撃]シリーズは、合計で8回、3年にまたがる長期ドキュメンタリー番組である。よほど反響が大きかったのだろう。参考のために、以下に全8回分の放送概要を、NHKのサイトから引用してみよう。スタッフの熱気のようなものが伝わってきてなかなか面白い。

(1)2007年1月28日(日)午後9時〜9時59分
[インドの衝撃]第1回≪わき上がる頭脳パワー≫
IT産業を中心に急発展し続けるインド、その武器は大量輩出される優秀な人材です。「ゼロ」の概念を発見するなど数学に強い国民性に加え、独立後のインドは科学技術によって国家の振興を図ろうと超エリート教育のシステムを作り上げました。その象徴となっているのがIIT(インド工科大学)。「IITに落ちたらMIT(マサチューセッツ工科大学)に行く」と言われるほどの難関校で、論理的思考を徹底的に鍛える独自の教育から、ITエリートが量産されています。IITの卒業生の中には世界的なIT企業を起業し、航空機の設計から物流システム、様々なソフトウェアの開発など、ビジネスの世界を席巻する者も現れています。インドの優秀な人材がどのようにして生まれるのか?シリーズ初回は、急成長するインドのIT企業を支える「頭脳集団」と、その頭脳を生み出す教育現場を克明に取材します。優れた人材を量産する秘密を探るとともに、インドの頭脳が世界にもたらす衝撃を取材します。

(2)2007年1月29日(月)午後10時〜10時59分
[インドの衝撃]第2回≪11億の消費パワー≫
第二回は地球最後の巨大市場とも呼ばれるインド市場に迫ります。インドでは今、「中間層」と呼ばれる旺盛な購買意欲を持つ人々が急増、その数は実に年間2千5百万人とも言われ、マレーシア1国分の消費パワーが毎年生まれる計算になります。消費の喜びに目覚め、大量の「もの」を買い始めた彼らが巻き起こす「消費革命」。伝統的な個人商店に変わってスーパーチェーンが急速に広がり始め、人々のライフスタイルも様変わりしています。将来性豊かな市場の争奪戦も激化、いち早く現地に適応した商品を開発し先行する韓国企業を、日本企業も追い上げようとしていますが苦戦を強いられています。猛烈な勢いで出店するスーパーチェーンの開発部隊、日韓企業の市場争奪戦に密着取材、インドの歴史始まって以来の「消費革命」の実態と、インド社会にもたらす影響を探ります。

(3)2007年1月30日(火)午後10時〜10時59分
[インドの衝撃]第3回≪台頭する政治大国≫
21世紀にはアメリカや中国と並ぶ大国になると言われるインド、独自性の強い外交政策で存在感を高めています。今年、アメリカとは核兵器保有を事実上認めさせる核合意を結び、一方で国境を巡り対立してきた中国とは関係改善を進めるなど、大国を巧みに牽制する外交を展開しています。しかし政治大国として台頭する一方で、内政では課題も多く抱えています。経済改革の中、農村と都市の格差が拡大するなど矛盾が広がっています。経済の発展をどう農村に及ぼしていくのか?様々な農村対策が試みられています。インドは、真に豊かな大国となることができるのか?シリーズ最終回では、核を巡るアメリカとの駆け引きの舞台裏や農村対策の現場を取材、インドの外交と内政の課題を検証します。

(4)2008年7月20日(日)午後9時00分〜9時49分
[インドの衝撃]第1回≪“貧困層”を狙え≫
今なお8億人が1日2ドル以下で暮らすインド。特に農村は貧困層が多く、政治・経済の最大の課題とされてきた。その農村にインド内外の企業が次々と進出、貧困層を対象とした商品やニュービジネスを展開、伝統的な農村の風景が変わり始めている。農村に格安でインターネットを巡らし、農家と直接取引するビジネスを始めるインドの巨大IT企業。海外の企業も、ヨーロッパのユニリーバが1ルピー(3円)の1回切りで冷水でも使えるシャンプーを開発、日本からは日清がインスタント・ラーメン市場でシェア獲得を狙うなど、貧困層向けの低価格・小容量の商品を続々投入している。企業が狙うのはインドだけでなく世界40億人、圧倒的な数と成長性を秘める貧困市場である。インドで貧困層向けの商品開発、マーケティングに成功すれば、世界で同じ手法が通用すると考え、貧困市場の分析、ビジネスモデルの確立にしのぎを削る。その動きはインドや世界の貧困層の暮らしをどう変えようとしているのか?番組では、未来の巨大市場をねらい農村に入り込もうとする国内外の企業の動きを追う。

(5)2008年7月21日(月)午後9時00分〜9時49分
[インドの衝撃]第2回≪上陸 インド流ビジネス 〜日本を狙う“製薬大国”〜≫
日本の「医薬品」の世界で、インドの存在感が急速に強まっている。去年、東京の日本ユニバーサル薬品がインドのザイダス社に、また大阪の共和薬品がルピン社に買収された。さらに先月、逆に日本の製薬会社が、インド最大手のランバクシー社の買収を発表した。こうした動きの背景には、インドの製薬産業の急成長がある。インドの製薬産業は、成分が同じでも製法を変えれば特許侵害にならないという独特の制度の下、欧米の新薬をコピーすることで発展してきた。特許の切れた後発医薬品ジェネリック)市場でも、コピー薬で培った製造法開発のノウハウを生かしコストダウンを実現。ジェネリックの普及が進む欧米市場に果敢に進出してきた。さらに特許紛争にも強く、アメリカでは新薬メーカーとの裁判を戦うことで、市場を獲得している。インドの製薬産業の次のターゲットが、今後、1兆円に膨らむとされる日本市場だ。一方、激化するコストダウン競争に備え、日本のジェネリックメーカーの中にも、彼らを頼る動きが加速している。番組ではインドメーカーの傘下に入った日本の製薬会社を密着取材、ITに並ぶ競争力を持つというインド製薬産業の実力に迫る。

(6)2008年7月27日(日)午後9時00分〜9時49分
[インドの衝撃]第3回≪“世界の頭脳” 印僑パワーを呼び戻せ≫
鉄鋼王と呼ばれるラクシュミ・ミタル氏、米シティグループの再建を託されたCEOのビグラム・パンディット氏、ともにインド生まれの「印僑」だ。世界130カ国に暮らす印僑の数は合わせて2,500万人、各地でその存在感を高めている。最も多い250万人が暮らすアメリカでは、印僑の9人に1人が年収1億円以上、人口は0.5%ながら、全米の億万長者の10%を占める。数学や金融に強い特質ともに、彼らの力の源泉となっているのが、世界に張り巡らされた印僑のネットワーク。成功者が若い印僑に、国際ビジネスや起業のノウハウを伝授、成功の連鎖が起きている。そして今、本国インドが急成長を遂げる中、アメリカの頭脳となってきた印僑たちが、相次いでインドに帰国し、新しい産業の担い手となりつつある。優秀な起業家を生み出し続ける印僑ネットワークや、印僑のスーパー人材を狙ったヘッドハンティングの動きを追い、世界を揺るがす印僑パワーの核心に迫る。

(7)2009年5月24日(日)午後9時00分〜9時49分
[インドの衝撃]第一回≪膨張する軍事パワー≫
100万を超える兵員数、空母や核兵器、弾道弾も保有するインド軍。しかし装備のほとんどは旧式で、本土防衛に徹してきた。ところが今、積極的な軍備拡張を実施、活発な軍事外交も展開、パワーを世界に誇示し始めている。今回、長期の交渉によって、これまで内外メディアの本格的な取材を避けてきた軍内部の撮影が許可されることになった。非暴力・非同盟の国是の下、独特のスタンスを守ってきたインド軍。どのような組織なのか?急速な軍拡でどう変わろうとしているのか?巧妙な軍事外交が目指しているものは何か?軍事大国としても台頭するインドの行方を探る。

(8)2009年5月31日(日)午後9時00分〜9時49分
[インドの衝撃]第二回≪世界最大の選挙戦 貧困層が国を動かす≫
有権者7億1千万、“世界最大の民主主義国家”インドで、5年に一度の国政総選挙が、4〜5月に行われる。インドの政治は今大きな変革期にある。二大勢力、国民会議派インド人民党に対して、無数の少数政党が台頭、インド最大の票田でもある弱者層の声を汲み上げ、格差の拡大など発展のゆがみも目立つ中、勢力を伸ばしている。特に今回は、カースト最下層のダリッドを基盤とする大衆社会党が台風の目。インド最強の女と異名を取る党首マヤワティの存在もあって、選挙戦は過熱している。番組は3つの陣営の選挙戦に密着、政略と利益誘導入り乱れる闘いを通じて、インド社会の変化と、巨大で多様な国をまとめあげている民主主義の現場を見る。

 動画サイトを検索すると、ほとんどの番組が今でも見られるようです。未見の方は是非どうぞ。NHKの資金力と取材力を見せつけられます。