武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 9月第3週に手にした本(9/16〜9/22)

*やっと涼しくなったと思ったら、早朝の散歩にティーシャツ1枚では肌寒く感じるようになった。公園の栃の木の実が熟して、自然に落下していたので、傷のついていないのを1個拾ってきた。エアコンなしでも一日が気持ちよくすごせるようになって、読書量が回復してきて、分厚いハードカバーにも手が伸びるようになってきた。古い本に手を伸ばすことが多いので、この頃の新刊文庫本の読みやすさに改めて感心している。

長田弘著『決定版われら新鮮な旅人』(みすず書房2011/2)*著者20代の頃の既刊詩集に数編の長編詩を追加して、決定版としたもの。若者の生きの良い、やや浮遊するような、熱気のこもった言葉が、詩行の中で輝いていて、著者の若さ溢れる詩篇の魅力を堪能した。若さが持つ負の要素よりも、若さにしか表現できない元気さや大胆さ、新鮮さに着目しながら読んでゆくと、朽ちかけた詩心が洗われるような気になる。

渡辺佳延著『サルトル、知の帝王の誕生』(新評論1998/11)*この著者のサルトル関連本の第1作目、著者が体験した戦後日本の一時期の文化状況に視座を置いた、サルトル現象の分析は、同時代を生きた者としてとても興味深い。ある時期を境にして、サルトルが急速に忘れられたことを含めて、戦後世界の冷戦構造と密接なかかわりをもった文化現象だったという理解は、納得のゆく論旨だった。

佐野眞一著『津波原発』(講談社2011/6)*津波に関する記述は全体の1/4程度、ほとんどは原発事故をめぐる原発関連の話。現地を事故発生から1週間に訪問するノンフィクション作家魂に感心した。自らが現場に出向き自分の目と自分の全身で現場を体感する以上に大切なことはない。体を張った現場取材でこの作品は、2年半が経過した今での古びていない。むしろ、オリンピック報道以降、急速に風化しつつある災害の記憶を取り戻す意味でも今なお読まれる価値があると思った。

ベンジャミン・グレアム著/増沢和美・新美美穂訳『賢明なる投資家』(パンローリング1990/10)*前に読んだ「証券分析」という著者の本が、興味深かったので手にした。よりハウツー本に近くなっているが、引用されているデータがあまりに古く、時代も大きく変わっているので、原理的な「証券分析」のほうに普遍性を感じた。投資理論の正しさは、儲かるかどうかで決まるという姿勢はその通り。未来は予測するしかなく、過去を語ることは少し虚しい。