武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 2月第4週に手にした本(20〜26)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。(今週もたくさんの本を手にしたが全部読了できたわけではありません。)

講談社編『味覚の歳時記』(講談社1986/6)*80年代の中頃、講談社が出していた豪華本歳時記シリーズの中でも、これは出色の出来だった。綺麗な写真と豪華な執筆陣を揃え、こなれてきた装丁とレイアウト、箱入りで布地の装丁、手にとってページをめくって眺めているだけで、和の食文化に浸されて空腹感が消えてしまいそうなほど。久しぶりに書庫から引っ張り出してきてしばらく眺めて愉しんだ。当時は4800円と高価だったが、ネットで検索するととんでもなく安い。1/4世紀前の本だが豪華さと美しさが変わらない、今が買い時かもしれない。
◎ジョン・トンプスン著/高田ゆり訳『リコーダーの世界』(全音楽譜出版社1974/8)*リコーダーという楽器とその奏法、歴史的な変遷とこの楽器を活用した有名作曲家、リコーダーの製作過程、今日の著名演奏者などについて、分かりやすく簡潔にまとめた70ページ足らずのブックレット。中学生ならあっという間に読んでしまう。入手困難となり高値が付いているようなので、出来れば図書館などで探して読むのがベスト、写真と譜例が豊富な分かりやすい良書。
岩村暢子著『「親の顔が見てみたい!」調査/家族を変えた昭和の生活史』(中公文庫2010/8)*先週読んだ「家族の勝手でしょ!」が興味深かったので、本書に手を伸ばした。60年以降に生まれた主婦達がつくる家庭の食事の特色は、彼女たちを育てた母親達に起因するのではないかと、敗戦前後に子ども時代を過ごしたお祖母ちゃん世代に調査の枠を広げた報告。食糧不足の敗戦前後から、一気にアメリカナイズされ徐々に飽食に向かった世代の育児観が面白い。庶民の食の昭和史がこういう形で掘り起こしてもらえるのは大歓迎。家庭料理とは何なのかを考えさせられる良書である。
小田実著『何でも見てやろう』(河出書房新社1961/2)*初めてこの本を読んだのは高校生だった。今から半世紀も前の本だが、懐かしいだけではなかった。この国がまだ若々しくて、世界に対して好奇心を漲らせていたあの頃の新鮮な息吹が幽かに残っている。ベストセラーは時代を反映すると言われるが、この本などその見本のようなもの、定価290円には驚いた。戦後の若者達の心を海外へ引きつけた、本物のツアーガイドブックだった。
◎秋谷豊著『秋谷豊詩集』(土曜美術社1982/4)*終生、現代における叙情詩の可能性を、実作を通して追求し続けた詩人の傑作選、62年刊行の詩集「降誕祭前夜」を全編収録したのは編者の見識である。この詩集で秋谷さんは詩人としての自己表現を確立、戦争体験の影を引いて、自然に挑む登山という行為を身にまといながら、独自の表現世界を築き、去る2008年に惜しくも他界された。手頃な選詩集なのに入手し辛いのが惜しい。