武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 3月第1週に手にした本(27〜4)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。(今週もたくさんの本を手にしたが全部読了できたわけではありません。)

江原恵著『包丁文化論/日本料理の伝統と未来』(エッソ・スタンダード石油(株)広報部1971/2)*「日本の料理屋料理は敗北した」という主張を、詳細な料理文化史の吟味をへて主張する挑戦的な日本料理文化論。この著者の最初の著作にして最高の力作、力感のある論旨の展開に眼が覚めるような迫力がある。料理好きには必読の一冊。
◎秋谷豊著『秋谷豊詩集成』(北溟社2009/7)*著者の没後に刊行された全詩集、生前に発行された13冊の詩集が収録されており、読み応えがある。現代の抒情を追求し、終生登山と自然に親しんだ詩人らしく、どこを読んでも爽やかさが滲む。もっと読まれていい詩人のひとり。
コリン・ウィルソン著/中村保男訳『アウトサイダー』(集英社文庫1988/2)*解説には元版がでたのは1957年とある。まだ中学生の頃だ、読んだのは大学生の頃だった。今読み直してみると、世間の規範からはみ出た疎外者たちの生き方に、徒手空拳で取り組む著者の若々しい勢いにニンマリしてしまう、絵に描いたような青春の書。アカデミズムに毒されていない青年の推進力に満ちた無手勝流の思索が魅力的。
サラ・ウォーターズ著/中村有希訳『エアーズ家の没落』(創元推理文庫2010/9)*邦訳4冊目、オカルト的な味付けを加えた恋愛時代小説。この著者の悠揚迫らざる緻密な情景描写には、何時も感心するけれど、本作はその持ち味を十二分に発揮して読ませる。舞台となっている、登場人物達を呑み込む古色蒼然とした領主館が気に入った。ディケンズの荒涼館を連想した。
◎畑谷史代著『シベリア抑留とは何だったのか/詩人・石原吉朗のみちのり』(岩波ジュニア新書2009/3)*若い世代のジャーナリストによる詩人・石原吉朗論。かつての私もそうだったが、石原吉朗の詩作品に初めて触れると、その厳しい言語表現に魅せられ引きつけられて、強い衝撃を受ける。そんな体験から、石原の戦後体験が何を意味するか、取材を重ねて行く姿勢が素直で好感が持てる。少数の熱心な読者に再発見されながらでも読まれ続けてほしい詩人である。