武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 4月第1週に手にした本(2〜8)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。(今週もたくさんの本を手にしたが全部読了できたわけではありません。

◎高橋久仁子著『「食べ物情報」ウソ・ホント』(ブルーバックス1998/10)*<フードファディズム>というキーワードは、氾濫する食べ物情報を読み解く一つの鍵になる概念だというきとに気がつき、本書を手にした。現代社会の豊かな国々における食物の過剰は、同時に食物情報の過剰でもある。有り余る食物に囲まれて窒息しかかっている日本人という生き物の不思議さに溜息が出る。
◎ファセット著/野水瑞穂訳『バルトーク晩年の悲劇』(みずず書房1973/4)*ナチの支配するハンガリーを逃れアメリカで過ごした最晩年の5年間、バルトークの亡命生活を支えた著者の詳細な回想録。著名な音楽家の晩年のドキュメンタリーであると同時に、人間観察が素晴らしく非常に優れた高齢者文学にもなっている名著。
◎ヴィヴ・シムソン、アンドリュー・ジェニングズ著/広瀬隆監訳『黒い輪/権力・金・/オリンピックの内幕』(光文社1992/5)*20年前の本だが、オリンピックの年になると読みたくなる渾身のルポルタージュ。オリンピックを見る前にこの本を読んでおくと、オリンピックに適度な距離が取れて、これまで以上に表からも裏からもオリンピックを鑑賞することが出来るようになる。20年も前の本だけれど、根本は改まっていないと思われるので、今でも読む価値がある。
山崎正和著『おんりい・いえすたでい60s/脱産業化の芽生えたとき』(文春文庫1985/3)*単行本は77年に出た。69年代に対する文明史的回想録。生きることに一生懸命だった青年期を、こういう本を介して思い出してみると、セピア色の写真を見るようで不思議な愉しさが湧いてくる。今に直結する時代の地殻変動は、あの頃に始まっていたのかということを教えられる、本書の指摘には印象批評を突き抜けて時代の本質を掘り当てるような勢いが感じられる、傑作同時代批評である。