武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 4月第4週に手にした本(23〜29)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。(今週もたくさんの本を手にしたが全部読了できたわけではありません。

岩合徳光著『滅び行く日本の野生/北の国/南の国』(集英社文庫1984/5/6)*動物写真家として有名な岩合さんの初期の動物写真集、75年にでた同タイトルの写真集を再編集して2冊の文庫本にしたもの。レイアウトがうまくて単行本だったものよりも画像が大幅に差し替えられテクストの改訂もあり別物と見紛うほどに見やすく読みやすくなった。構成・レイアウトを担当した三村淳という装丁者のお手柄、前作よりも文庫版の方を入手すべきである。岩合さんの写真は野生動物の表情を生き生きととらえて相変わらず見事、10年間の精進の成果がはっきりと出ている。添えられている動物エッセイも分かりやすく、この国の自然の実情を野生動物を通して興味深く伝えてくれる。今でも十分に読む価値のある名著となった。
◎風著『風の書評』(ダイヤモンド社1980/11)*70年代後半、週刊文春に連載された匿名書評をまとめたもの、ほめることしか出来ない書評は意味がないとばかりに、非常に辛口の姿勢を貫いた異色の書評集、酷評を読んでスカッと胸のつかえが取れた気がすることもあるが、取りあげられた本を読む気がしなくなるのには参った。僅かに何冊か褒めてある本に出会っても、俄に信じがたい気がするほど批判的な姿勢が続く希有な書評集。
◎G・K・チェスタトン著田中西二郎訳『ブラウン神父物語』(嶋中文庫2004/12)*ブラウン神父の翻訳は、創元社推理文庫版、ハヤカワ・ポケット・ミステリ版、新潮文庫版など数社の翻訳がでていたが、本書の田中訳は初めて手にする。日本語としてすっきり意味が通ることに意をつくおり、これまで読んだ中で一番薄味のブラウン神父だった。癖がない文体なので、物語の語り手(話者)のことと、視点がどこにあるのかなどという、つまらないことを気にしながら愉しんだ。
谷沢永一著『紙つぶて/自作自注最終版』(文藝春秋2005/12)*昭和を代表する傑作書評コラム455篇に、解説を追加して最終版と銘打った書評本。追加された解説文からは、初出の書評のような緊迫感が薄れ、紙つぶて完全版と比べると、水で割って薄めた飲み物のような読み味。初めて読む人にこの版は勧めたくない、解説なしの書評だけの直球勝負の元版を繙くべきだ。紙つぶてファンなら、1000ページ近い大冊は高価だが、語り口が穏やかになった著者の寛いだ文体とともに追加情報を手にするのも悪くない。
朝日新聞日曜版「世界名画の旅」取材班著『世界名画の旅3イタリア編』(朝日文庫1989/6)*名画とその絵に絡むエピソード、そして海外旅行、これらの美味しい話題をミックスして愉しくない訳がない。ふとした空白の時間や寝る前の手持ちぶさたの折、挟んでおいた栞の所から先を読む。文庫版になって扱いやすくなって、寝ころんで読むのに重宝している。
◎佐藤垢石著『随筆たぬき汁』(墨木書房1941/9)*戦前の釣りジャーナリスとにして名随筆家として知られている著者の、初随筆集。淡々として淀みのない文章で綴られた身辺雑事が、古本のページの間からセピア色をして立ち上がってくる。古書ならではの時代をさかのぼる愉しみに耽る贅沢。
エドガー・アラン・ポオ著/中野好夫訳者代表『世界文学豪華選7 ポオ篇』(河出書房1952/1)*相当昔に古書店のぞっき本の山から掘りだして買ったもの。豪華な翻訳者によるポオの傑作短編と詩篇が並んでおり、何度読み返してきたことか。中野好夫訳が5篇、小川和夫訳が2篇、松村達夫訳が2篇、阿部知二訳が1篇、佐々木直次郎訳が5篇、島田謹二訳の詩4篇、今から思うと何とも豪華な顔ぶれ、10歳頃から読書の世界に我を引き込んだ真犯人ポオ傑作選、偏愛の一冊。