武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 6月第2週に手にした本(4〜10)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。(今週もたくさんの本を手にしたが全部読了できたわけではありません。

◎ポオ著/訳者多数『ポオ全集1,2,3』(東京創元新社1963/6〜12)*1500部限定で発売当日に完売したと栞にあるように、当時は高値の花、定価2500円の豪華本は夢のまた夢のような手の届かない本だったので、半世紀以上経った今手にしても感慨は深い。その後に出た普及版を持っていたけれど、今回、手頃な価格だったので一組買い足すことにしたもの。背表紙に使われている羊革に保革クリームを塗布して磨いて豪華本らしい艶を回復してやる。何故か革装丁の古本にメンテナンスが疎かなものが多い。豪華本の読書には、奇妙な物質的満足感がつきまとい、わるくはない。800ページを越える大冊第3巻がこの全集の白眉、何回読んでもポオの多面性にたじろがされる。
◎ルグロ作/平野威馬雄訳『昆虫の詩人/ファブルの生涯上下』(主婦の友社1941/1)*ファーブルの弟子であり友人でもあった著者によるファーブル公認の評伝、いまは文庫化されているが、これは戦前の版、めったに見かけない古書として愉しんでいる。
◎キャサリンマンスフィールド著/佐々木直次郎訳『序曲・入江のほとり』(冨山房百科文庫1925/7)*2編の自伝的中編を収める、マンスフィールド紹介としては早い時期の翻訳だろう。「入江のほとり」の方が訳がこなれており、著者の繊細で叙情的な自然描写に透き通るような輝きがある。短編に傑作が多いこの作家の、この2編を敢えて選んで紹介した理由は何だったんだろう。
秋山徳蔵著『改訂増補仏蘭西料理全書(下)』(晴風社1960/6)*本巻は仏蘭西料理の<正餐と本膳の料理編>、800ページ近くを思いつきではないオーソドックスなフランス料理が並ぶ。この上下2巻を繙くと、世界3大料理の一つにフランス料理が加わる理由が伝わってくる、美味しく食べることにかけるフランス食文化の厚みに圧倒される。家庭料理からは遠い世界、プロの料理だ。
◎スティーヴンスン作/佐々木直次郎、稲沢秀夫訳『宝島』(新潮文庫1951/3)*佐々木直次郎訳にもう稲沢秀夫氏が翻訳者に加わり、比較的良心的に新字新仮名に訂正された。古めかしい語句がかなり書き換えられているが、基本的には本文から註に至るまで、直次郎の元の訳が使われている。
◎スティーヴンスン作/佐々木直次郎訳『寶島』(岩波文庫1935/10)*佐々木直次郎訳の元版、新仮名版に改訂される前の直次郎訳が確かめたくて手にしたもの。戦前の岩波文庫はほんの少し縦長の今の新書に近いサイズだった。古いのに用紙も表紙もほとんどヤケていないのが不思議、製紙技術が違うのだろうか。