武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 8月第2週に手にした本(6〜12)

*情けないことに書庫にあることを忘れて同じ本を買ったり、読んだことすら忘れて図書館に予約を入れたりするようになってきた。読んだり読みかけたりした本を備忘録としてメモ、週1で更新しています。(今週もたくさんの本を手にしたが全部読了できたわけではありません。

ポール・アルテ著/平岡敦訳『赤い霧』(ハヤカワ・ミステリ2004/10)*1887年にロンドンで発生した連続娼婦殺人事件を題材にした本格ミステリ、前半で犯人が分かってしまうので、興趣は作者の手並み拝見といったところにあるのだろうか。視点人物のもったいぶったゆらめきが怪しい雰囲気を盛り上げる。凝った作りに乗って行けるなら愉しめるだろう。私は少し白けた。

天野祐吉著『嘘八百/広告の神髄とは何ゾヤ』(文春文庫ビジュアル版1990/10)*明治から戦前までの活字メディアに登場した広告のコレクションに天野が注釈を加えたもの。読者の関心を呼び起こし、効能を誇大に宣伝し、商品の売り上げを実現しようとする悪戦苦闘は、昔も今も代わらない。本当にこんな商品があったのかと、吃驚して爆笑する広告がたくさん見つかる。4冊シリーズとなったのも頷ける。昔から全ての広告は嘘だらけだった、今も変わらないことがよく分かる、嘘が巧妙になっただけか。

◎関川夏夫著『戦中派天才老人山田風太郎』(マガジンハウス1995/4)*読み始めてすぐに傑作だということが分かった。老化の現実は厳しい。話を聞くことさえ辛いことが多い、関川さんはそんな老齢の壁を、敬愛の念でのりこえ、聞き取った内容を巧みに編集して、自身の読書の記憶を引き出し、風太郎の晩年の風景を鮮やかに蘇らせた。風太郎の晩年の随筆は途轍もなく面白いが、この本は、それらの自筆の随筆とはまたひと味違う、風太郎という作家の肖像を描き出した。繰り返しの多い老人の繰り言にも、篩にかければキラリと光るフレーズはたくさんある、若い優れた編集感覚が、根気よく拾い集めると、こんなモノが出来上がるという見本。

◎フェリペ・フェルアンンデス・アルメスト著/小田切勝子訳『食べる人類誌』(ハヤカワ文庫2010/6)*本格的な歴史家による人類の食文化史、食の変化を大きく8段階に分けた着想が鍵、単なるグルメから抜け出すために、本書はとても参考になる。美味しさにも歴史的な意味合いがあることに気づくことは大事なことである。盛り込まれた情報量が半端ではない。