武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 10月第3週に手にした本(15〜21)

*今月も後半になって爽やかないい天気が続いている。室内にいて古本など読んでいると、勿体無いようなピント外れなような気がしないでもない。必要あって数回の長距離ドライブにでかけた。標高の高い山の方へゆくと、落葉樹の先の方で早くも紅葉が始まっていて、秋の深まりを感じた。北の国から雪の便りが届き始めた。

花田清輝著『ザ・清輝/花田清輝全一冊』(第三書館1986/6)*この著者の本が今ではなかなか手に入りにくいことと、この出版社の全一冊シリーズが気になっていたので、格安で出ていた本書を手にした。評論家のようでもあり小説家のようでもあり、なかなか一筋縄でゆかない感じがして、何冊か読んだが、若い頃は今ひとつ愉しめなかった。今回愉しめなかったら、縁のなかった作家にしようと思い読み始めた。

イザベラ・バード著/金坂清則訳注『完訳 日本奥地紀行1』(東洋文庫2012/3)
イザベラ・バード著/金坂清則訳注『完訳 日本奥地紀行2』(東洋文庫2012/7)*スコットランド人の女性旅行家バードの明治11年から2年間をかけて日本国内各地を旅した克明な旅行記、当時の外国人の女性の視点からの記録として、資料的価値が高く評価されている紀行文の完訳版。平明な翻訳に詳細な訳注がついて、とても読みやい。今から130年ほど昔、維新から10年ほどしか経過していないこの国の様子を、イギリス婦人の目からみるとどのように映るか、美しい著者のペン画を配して素敵な読み物に仕上がった。記述の分かりにくいところは周到な訳注で補ってあり、昔のことなので訳注を読んで本文をふくらませる楽しみは格別。本文の流れから抜け出て、訳注で道草をする愉しみを久しぶりに味わった。大変な力作。

椎名誠/編集人『本の雑誌96年分12冊』(本の雑誌社1996/1〜12)*不思議な事に、このバックナンバーを読んでいても、時代の雰囲気を殆ど感じない。勿論、その年に発行された本の話題が多いのだが、執筆者たちは時代を気にせず、本の世界に遊んでいる。この年、病原性大腸菌O−157の話題でマスコミは大騒ぎだった。
椎名誠著『本の雑誌血風録』(朝日文庫2000/8)*本の雑誌のバックナンバーを読んでいて、創刊当時の関係者たちの雰囲気が知りたくなって手にした。本好きの仲間が集まり、熱気をはらんで雑誌づくりに取り組む姿が、若者らしく向こう見ずで勢いがあって面白かった。教養主義的な方向に傾きがちな本の話題を、努めて軽く扱おうとする姿勢が新しいものとして迎えられていった事情がよくわかった。

◎嶋岡晨/大野順一/小川和弘佑編『戦後詩大系4』(三一書房1971/2)*この巻でシリーズ完結、最後に<戦後詩史序説>と<戦後詩の展望>、年表が付く。この巻でも初めて目にする名前と作品が多い。4巻にざっと目を通し、必然性のある企画だったことがよくわかった。

横溝正史著『日本探偵小説全集9/横溝正史』(創元推理文庫1986/1)*「鬼火」「本陣殺人事件」「獄門島」の3傑作に三編の佳作短編を配した、横溝傑作集。物語巧者の筆跡が随所に光っており、何度読んでも先へ先へと引っ張られてしまい愉しめる。巧みに時代風俗を組み込んであり、描写の膨らみとなっている。一途に「探偵小説50年」を生きた巨人の最良の部分がまとまっている 編者の見識に軍配を上げたい。