武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 10月第2週に手にした本(8〜14)

*急に朝晩がひんやりして来た。慌てて掛け布団を温かいものに変えたり、長袖のシャツを出したり、夏から秋に衣替え。少し好奇心が動き出したので、図書館へのネット予約が増えてきた。図書館職員の方には申し訳ないが、図書のネット予約というサービスは素晴らしい。図書館の中をウロウロ探しまわることがなくなってとても助かっている、感謝。

◎Marneウィルキンス著/蓮尾純子 東馨子訳『湖のそばで暮らす』(筑摩書房1994/7)*ウィスコンシン州の田舎で子供時代をすごした著者の思い出話、自然たっぷりの古き良きアメリカの地に足のついた野外生活が活写されている本文と、物作りのコラムが愉しい。叙情的な筆致の本文を先に読み通し、後で物作りの囲みを読んで楽しんだ。著者自らの温かみのあるペン画が雰囲気をもりあげている。昨今のアウトドアビジネスの味気なさが身にしみる。

◎グスタフ・ルネ・ホッケ著/石丸昭二/柴田斎/信岡資生訳『ヨーロッパの日記/第1部ヨーロッパの日記の基本モチーフ』(法政大学出版局1991/3)
◎グスタフ・ルネ・ホッケ著/石丸昭二/柴田斎/信岡資生訳『ヨーロッパの日記/第2部ヨーロッパ日記選』(法政大学出版局1991/3)*ドナルド・キーン氏の「百代の過客 日記にみる日本人」によるこの国の日記文学の研究には教えられることが多く、よくぞここまでと感心したことがあった。本書は、ヨーロッパ全域におけるルネサンス以降(近代)の日記作品を分類整理、その特質を多角的に展開、第二部に代表的な日記を抄録した浩瀚な研究書。日記作品の好きな方には貴重な情報資料となりそう。第一部の様々な角度からの意図と方法の分析が素晴らしい。キーン氏は日記文学を日本の独自性として強調されていたが、おそらく日記表現は文字を持つ世界中の人々の私的な自己探求の方法なのだろう。

椎名誠/編集人『本の雑誌95年分12冊』(本の雑誌社1995/1〜12)*先週のバックナンバーから間があいてしまったが、途中が抜けていることが全く気にならないで愉しめる。ほぼ100冊、ダンボールに2箱分は置き場に困るけれど、本好きにはたまらない雰囲気はたっぷり。この年は地下鉄サリン事件阪神淡路大震災があった年。

◎嶋岡晨/大野順一/小川和弘佑編『戦後詩大系3』(三一書房1970/12)*この巻はス〜ハまでの詩人の作品が収録されている。やはり初めて目にする名前と作品が多い。名前が知られていることは、ある程度の質を保証するが、それだけではないことが改めて実感できた。知らない傑作に遭遇することを愉しみに読み進めている。

薄田泣菫著『茶話』(岩波文庫1998/7)*日本語でコラムを書こうとすれば最後はこうなるかな、と思わせる洗練の短章がずらり。話題にのぼる主題やエピソードは、ほぼ一文にひとつ、丁寧かつ入念に言葉を刻んであっけないほどスッと終わり 読後に仄かな余韻を残す。難解な[白羊宮]の詩人が、散文詩ではなく散文を書くとどうなるか、その平明で透明感のあるわかりやすさに吃驚。今でも日本語で短文を書く時のお手本となろうが簡単に真似のできる文章ではない。目立たないように技巧の限りを尽くした文章の燻銀の輝き。