武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 10月第4週に手にした本(22〜28)

*爽やかな秋晴れの好天が続いているので、腰を落ち着けて本を読んでいられない。仲間とのイベントの準備など、気ぜわしい日々をなんとかやりくりしている。古雑誌読みの愉しみに嵌りつつあるが、安く手に入るのはいいが嵩張るのが悩みのタネ、溢れ出る蔵書の始末に困っている。

マルセル・プルースト著/鈴木道彦訳編『失われた時を求めて(上・下) 』(集英社1992/6)*大長編の優れた抄編ものに惹かれたこともあって、「失われた時」の一番新しい鈴木道彦訳の抄編を手にした。以前に拾い読みした淀野・井上訳と比べて、平明で透視度の高い日本語になった鈴木訳で、網目の細かいプルースト文体に浸される愉しみは、ちょっと他では味わえない醍醐味。抄編をさらに拾い読みする不真面目な読者になって愉しんでいる。ちなみに、この上下2巻の単行本のあか抜けた装丁が気に入っている。

朝日新聞社編集部『週刊 藤沢周平の世界/朝日ビジュアルシリーズ1〜30』(朝日新聞社2006/11〜)*このシリーズはかつて1巻目だけ購入してそのままになっていたもの、今回格安で全巻一括購入できそうなので、意を決して入手した。書庫で眠っている全集とは趣が異なり、藤沢周平ファンに向けたあの手この手のサービスを盛りこんである。人物相関図、ストーリーマップなどに工夫が見られ、写真付きで抄録などを読んでいると、原作を思い出して再読へ気持ちが揺れる。しばらくは藤沢作品の副産物で愉しい時間が過ごせそう。

椎名誠/編集人『本の雑誌2000年分10冊』(本の雑誌社2000/1〜12)*途中を飛ばして2000年の不揃いバックナンバーを格安で入手した。5月号が25周年特大号となっており、同誌の25年史によれば、1976年4月に創刊、78年までは不定期な季刊を続け、79年5月から隔月刊に発展、88年5月の59号から月刊に移行している。雑誌社の高度成長ぶりが印象的、91年10月に100号、2000年2月に200号、2008年5月には300号が出している。同人誌的な馴れ合いの密度が、次第に希薄になってなってきおり、寂しい気がする。慣れ合ってどこが悪いか、という居直りが魅力だったのに。それにしても椎名誠の本世界を面白おかしく切り取る編集センスのなんとも凄いことよ。

橘外男著『橘外男傑作集/青白き裸女群像』(桃源社1969/4)*60年代の中頃、桃源社が刊行した<大ロマンの復活>シリーズの1冊。忘れられていた物語性の強い作家の発掘に拍手を送った人は多かった。本書には「青白き裸女群像」「陰獣トリステサ」「妖花イレーネ」の3長編を収める。3作品ともフランス、スペイン、アルゼンチンと異国を舞台にとった伝奇もの、制作は戦後の混乱収まらない1940年代前半、想像力をエネルギッシュの働かせたこの種の作品が大衆的に好評を博した理由はわかる気がする。