武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 桂川潤作『MARGINALSCAPE』(電子版写真集)

ファイル転送サービスを使用した電子版写真集の可能性

 先日、本の装丁をしている知人から、PDF版の電子写真集がメールを介して送られてきた。写真集のデータが重いので、メールの内容はメッセージだけ、写真集のファイルは添付ではなく、ファイル転送サービスを介してPCに当方がダウンロードするという仕掛けになっていた。このアイディアは面白いと思ったので紹介してみたい。

 写真集のタイトルは『MARGINALSCAPE』、ポーのアフォリズム集『マルジナリア』(欄外メモの意)をもじってSCAPE(〜的風景)とくれば、覚えておきたい忘れられない風景とも、余白に記した覚書のような心象風景とも読める。
 表紙の象さんをデザインした誰もいない児童公園の奇妙な空虚さが印象的、マウスをクリックしながらページを捲ってゆくと、歩道、階段、駅のホーム、線路際、八百屋、商店街、高架下、港の通路、工事現場などなど、現代の繁栄から取り残された街のエアポケットのような画像が次々と続く。シャープなスナップなので、60年代のフェリーニの映像スチールのような印象がある。
 PDFという画像フォーマットをつかっているので、本の写真集ではめったにない、カラーとモノクロが同居して面白い効果を出しているページもある。3.11の津波が破壊した東北の風景をも含めて、切り取られた街の風景の空虚さを見てゆくのが少々辛い。32ページ建てのミニ写真集を見終わって、最近、ちゃんとした写真集を手にしていなかったことに気がついた。

 ネット上を検索してみると、女の子の若さに焦点をあてたアイドル写真集風のものが、数限りなくヒットする。すべて有料だが書籍の写真集ほど高くはない。また、写真集にはなっていないが、アマチュアの目を瞠るような風景写真や花の写真がおびただしく氾濫している。写真家にとって今が、良い時代なのかどうなのだろうか。
 高性能のデジタルカメラが比較的安く手に入るようになって、ソフトさえ入手すれば、アマチュアでも簡単に画像処理ができるようになり、画像表現の道がぐんと広がってきている。一方で、この写真集の桂川さんが指摘するように、書籍として写真集を出版しようとすると、そのハードルは文章主体の書籍出版に比べてはるかに高いというのが現状のようだ。

 そこで考えられたのが、誰でも簡単にできるファイル転送サービスを利用したPDF写真集の電子出版というアイディア。ハードルが低いので、写真が好きでPCで画像処理ソフトが使える人なら誰でも写真集づくりが愉しめるのではないかという問題提起である。メールをやり取りしている対象者へなら簡単に届けることができる。HPやブログを利用すれば、さらに配布する範囲を拡大できるだろう。
 プロとしての営業活動となると厳しいと思うが、アマチュアが録りためた選りすぐりの写真を公開するには、ちょっと面白い方法ではないだろうか。インターネットの大海原を、夥しい電子写真集が小魚のように飛び交うことを想像するとなかなか愉快な気分になってくる(笑)。