武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 12月第2週に手にした本(10〜16)

*予約してあったキンドルの端末が週末に届いたので、さっそく弄り始めた。電子書籍端末の本命視されていた商品だけに、所々不満はあるが割りと良くできている。これまでは電子書籍はPCで読んできたので、これからの読書がどう変わるかそれとも変わらないか、どうなるか楽しみ。単純に新しい商品を手にすることはそれ自体わくわくすること。この初期のわくわく感が収まった時、手元のキンドルはどうなっているだろうか、いずれ報告したい。

◎エミール・マール著/田中仁彦、磯見辰典、池田健二細田直孝訳『ロマネスクの図像学(上/下) 』(国書刊行会1996/11)*この著者による中世の図像体系三部作の、構成上では第一部に当たるのだが執筆順では最後の著作。個人的にはこの巻が三部作の中でもっとも緻密に構成されており、記述も精彩に満ちているという印象を受けた。魅惑に満ちたゴシック芸術の母体となった12世紀南欧キリスト教芸術の解読は、異邦人にとっては目の覚めるような未知の世界への道案内であり、驚きの連続だった。中世ヨーロッパに関心のある人には是非手にしてもらいたい名著。

◎稲田孝著『聊斎志異/玩世と怪異の覗きからくり』(講談社1994/4)*第1章のはじめに<支那趣味>濃厚な知名文人による紹介が、聊斎志異に対して「偏った先入観念を植えつけたしまった」とあり、本書の意図は、偏見から志異の世界を解き放つことにあるという。論争的な内容かと疑ったが、そうでもない。真っ当な志異紹介の解説本である。志異の多様な側面に言及してあり、頻出する狐譚にもよく焦点を当てており分かりやすい志異解説。

池田弘志著『野菜がクスリになる44の食べ方』(小学館文庫2004/1)*野菜に関する健康情報を整理して要領よくまとめた野菜の栄養の啓蒙書。図解を多用し、専門家によるコメントを随所に配した記述は、分かりやすくて説得力がある。特定の食品だけをクローズアップするという、よくある偏向をまぬがれており、どなたにもお薦めしたい良書、ただし、各トピックに付いているレシピにはあまり感心しなかった。

国木田独歩著『武蔵野』(Kindle版)*予約していたキンドルの端末が届いたので、さっそくAmazonから購入(価格¥0)して読んでみた。東京周辺で暮らす明治期の人々の新しい自然観を、説得的に展開した歴史的名著。里山と共に暮らす人々の情景を見事にすくい取った爽やかな随想、1898(明治31)年発表の作だが、部分的には今でも通用するところがあり、何度も読み返して飽きない。