武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 新たな生活空間の構築(45)


《クロちゃんに影武者》


何度か 山荘に来るようになった黒猫のクロちゃんについて書いた。
野良猫の習性が飼い猫にない強烈な個性になっていて
面白いと感じたことが何度もあったからである。
人に媚びない猫というのもなかなかカッコウいいのだ。
最近では山荘に行ってクロちゃんが来てくれるのが
何となく楽しみの一つになっていたほどである。


ところがところがである。
先日山荘に行ってクロちゃんに猫餌を上げていた時
急にクロちゃんが緊張して立ち上がり
食べかけの餌を残してあわてて走り去っていったのである。
どうしたのかと思って反対方向を見ると
何ともう一匹のクロちゃんがのっそりと近づいてくるではないか。
一瞬、何事だろうと混乱しかけたけれど、
これまでそれとなく疑問に感じていたことが
パズルの最後のピースにたどり着いた時のように
ピタピタっと解けることが分かった。


大好きだった食パンを突然食べなくなったり
満腹になって残っていたはずの猫餌がいつの間にか空になっていたり
警戒心のレベルが急に高くなったり低くなったり
いかに猫が気まぐれな動物だったとしても
どうしたのだろう、これは変だぞと思っていたことが
一気に氷解した。
要するに、姿かたちが良く似た黒猫が二匹いて
時間差をつけて山荘に現れていたのだった。


頭から尻尾まで、腹も背中も真っ黒で
同じくらいの大きさで、二匹とも俊敏な野良猫で
一切鳴き声を出すということをしなくて
餌を食べると愛嬌を振りまくでもなく
さっと帰っていってしまうところがそっくりだったので
勝手に一匹の黒猫と思い込んでしまったのである。


あまりにそっくりだけれど二匹を区別しなければ
二匹に失礼だと思ったので、必死になって違いを探した。
一匹は、少し顔つきに丸い感じがあり
もう一匹のほうは、心なしか三角な感じがするので
もうクロちゃんと呼ぶのはやめて
マルちゃんとサンちゃんと呼び分けることにした。
(上の画像がマルちゃん、下の画像がサンちゃん、兄弟か親子かとてもよく似ている)


名前をつけてその特徴を数え上げると
二匹はくっきりとした別の個性をもつ
独立した固体と感じられるようになり何とも不思議である。
この国の野生動物生態研究に、まず名前をつけるという
伝統的な方法があると聞いているけれど
効果的な手法と改めて確認する思いだった。
これからは、マルちゃんとサンちゃんの
山荘訪問の時間差攻撃が楽しみになってきた。