武蔵野日和下駄

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 新たな生活空間の構築(46)


《葛(クズ)は敵か味方か》

植物が旺盛に成長をはじめるこのゴールデンウィーク明け頃から
自然林の雑木林で暮らしていると、植物に対して、
有益な草木として生育を促してやるか、
黙認して中立の立場をとるか、
それとも迷惑植物として排除の対象にするか、
いずれかの選択をせまられる場面が多くなる。


昨年は、敷地に繁茂しているクマザサをどうするか悩み
いろいろ調べまわった結果、
斜面の土壌流出を防いでくれる有用植物として
繁殖をコントロールしながら味方にすることに決め
慎重に見守ってゆくことにしたのだった。


今回は、旺盛な繁殖力で斜面のいたるところに生い茂る
葛をどうするか住人として態度を決めることにした。
去年は気がついたときには時すでに遅く
雑木林の地上面と日当たりの良い樹木の南面のかなりの部分が
繁茂する葛の葉に覆われてしまい
美しい紫色の花を観賞する余裕はなかった。
前の所有者からも葛対策に苦労したことは聞かされていたのだが
想像していた以上だった。


まず、野草や雑草関連の本やネットで調べて
葛が何ものなのか調べてみた。
すると、何だか、少しわけが分からなくなった。
食用にする有用植物とするものもあれば
護岸を壊す有害植物とするものもあり、
評価は様々にわかれて四分五裂。
秋の七草の一つで、葛餅の原料となるデンプンが取れ、
柔らかい若い芽や茎は、クセも少なく
おひたしやテンプラにすると美味しいというのもある。
食料不足の時、飢えをしのぐ大事な食料だったともある。
丈夫そうな茎で籠を編んだり、強い繊維を取り出して
布に織って使ったこともあるらしい。
万葉の時代から歌にも歌われてきた
雑木林とその周辺に暮らす人々に馴染み深い植物だったが、
何故か栽培植物にはならず、
農業の対象に組み込まれることはなかったものでもある。


調べていて面白いエピソードに遭遇したので
ウィキペディアから引用してみよう。

アメリカでは、1876年にフィラデルフィアの独立百年祭博覧会の際に
日本から運ばれて飼料作物および庭園装飾用として展示されたのをきっかけとして、
東屋やポーチの飾りとして使われるようになった。
さらに緑化・土壌流失防止用として政府によって推奨され、20世紀前半は持てはやされた。
しかし、繁茂力の高さや拡散の早さから、
有害植物ならびに侵略的外来種として指定され、駆除が続けられている。
現在ではクズの成育する面積は3万km2と推定されている。

要するに、有用植物として輸入してはみたものの
あまりにも繁殖力が旺盛なためコントロールしきれなくなって
管理区域外にあふれ出してしまい
有害植物に指定されてしまったということなのだ。


この国でも、かの国でも
葛は管理や農業の対象からはみだしてしまう
相当にスケールの大きな植物だということが分かった。


それでは山荘の雑木林管理の立場からはどうするか。
相当に悩んだ結果、やはり迷惑な植物として
繁殖を抑制し、駆除の対象にすることにした。
このことを決心したのは今年5月のゴールデンウィークあたり、
早速、先週頃から、葛の葉をみつけたそばから引っこ抜き、
今週は、敷地全体を見てまわり、木々に巻き付き
高く這い上がっている木質化している茎を切り剥がし
葛退治に汗と時間を費やした。


するとどうだろう、先週切ったはずの若葉が
今週はさらに数を増やして蔓をのばしている。
ただ、今は若くて柔らかいので、それこそ
集めておいてテンプラかおひたしにしてやりたいくらい。
しばらくは、葛と新住民との根競べになるだろう。
侵略的なアメリカ人を侵略的外来種と恐れさせ
この国でも長い間、農業用植物として飼いならすことのできなかった好敵手
むなしい闘いになることを覚悟しつつ
老骨に鞭打ち、出来る限り奮闘してみようと思っている。


秋になれば、あっという間に枯れてしまい
デンプンを貯めこんだ主根だけとなって冬眠してしまうのだけれど。


ちはやぶる神のい垣に はふ葛も
秋にはあえず うつろいにけり   (紀貫之


葛の花 踏みしだかれて 色あたらし 
この山道を 行きし人あり    (釈 超空)