武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 新たな生活空間の構築(56)


《野良猫サンちゃん》

赤城山荘の敷地に作った小道が野良猫や野生動物の通り道になっている。
私有地のなで、人間は住人とゲストしか通らないが、
野生動物は自由気ままによく通ってゆく。
歩きやすくて人気がないところが気に入られたのかもしれない。


この細い山道をたどって毎日のように遊びに来る
黒い野良猫が二匹いることは以前にも書いた。
その中の一匹が、少しずつ私たちに慣れてきて
ある時から小声で鳴くようになり最近では
僅かながらコミュニケーションらしきものが成立するようになった。
その野良猫サンちゃんについて書いてみたい。
(画像は行儀よくカメラを見つめてくれたサンちゃん)


サンちゃんは喧嘩っ早い雄猫である。
一時期、首の傷跡が首飾りのように
首を取り巻いていたことがあった。
一度喧嘩のシーンを見たことがある。
サンちゃんは小柄な体を低く構えて
自分よりも大きな相手に対して一歩も引かず
じりじりと距離を詰めてゆき、気合負けした相手が浮き足立つと
果敢にその後を追いかけていった。
その後、誇らしげな顔つきをして帰ってきたのには笑ってしまった。
ある時、首の喉仏の辺りに、抉られたような大きな傷跡をつけてきた。
原因は分からないが、猫同士の喧嘩では考えられない
ひどい傷をおっており、もう少しで致命傷になりかねない傷だった。
もしかすると、最近よく山荘に現れるイノシシと
縄張り争いを演じたのかもしれない。

(右の画像は、リビングに上げてもらい、寛いでいるサンちゃん)


サンちゃんは猫語と人語を使い分ける。
何月頃からだろうか、水で薄めた牛乳を与えたら
母猫の母乳を思い出したのか、小さく口をあけて
ミーとささやいてねだるような鳴き方をするようになった。
やがて何かしてほしいときや道で出会った時などに
ミーミー鳴いて私たちとコミニュケーションをとるようになった。
ところが、近くにメス猫がいる時などには、
発情期のオス猫の鳴き声で、低く太い声で鳴くのを耳にした。
明らかに二種類の鳴き声を使い分けている。
ある時など、私たちに向かって猫語で鳴いてしまい
慌ててミーミーと恥ずかしそうに訂正したことがあり笑ってしまった。
最近では、食べ物がほしい時と、別に要求がある時で
ミーの鳴き声に変化をつけて鳴き分けている。


サンちゃんはフェミニストである。
ある日から、三匹の子猫をつれた母猫が餌を食べに来るようになった。
子猫も母猫も痩せていて哀れだったので
私たちの食料の一部を分けてやっていたら
サンちゃんが血相を変えて飛び込んできた。
猫語の唸り声で「オレを差し置いて何食べてんだ」と言う感じだった。
子猫の前で喧嘩が始まるかと思いきや
母猫の顔を見るなり急におとなしくなり食べ物を譲り
少し離れた所から優しげな表情で親子を眺めていたのには吃驚。
母猫のお尻の匂いを嗅ごうとして、猫パンチをくらっても
おとなしく引き下がるだけだった。
母猫の食事中、飛び回ってふざけている子猫たちを
優しく見守っている風情さえあった。
三匹の子猫の二匹は黒猫だったので、父親だったのかもしれない。
他のメス猫に対しても優しい。
サンちゃんはメス猫によわいのである。
(画像は山荘脇の地べたで寝込んだサンちゃん、安全なら地べたでも熟睡できる能力を身につけている)


山里の自然環境は野良猫には相当厳しい。
夏は暑くて冬は容赦なく寒い。
何を食べどんなネグラを確保しているのだろうか。
母猫が連れてきていた三匹の子猫は
いつの間にか見えなくなって
母猫だけが一段と痩せた姿を見せるようになった。
人気のない山林には心無いゴミの不法投棄が絶えないだけでなく
犬や猫を捨ててゆく人も後をたたないという話をきいた。
野良猫の由来をたどれば出所はいずれは
捨てていった人間にたどりつく。
サンちゃんを見ていると複雑な感慨がわいてくる。