武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 新たな生活空間の構築(63)


《野良猫サンちゃんその3》

サンちゃんと名付けた野良猫が
山荘に現れるようになって半年以上が経つ。
私たちが山荘に滞在している間、ほとんど毎日やってくるので
この頃はサンちゃんとの触合いが山荘での欠かせない楽しみになってきた。


窓を開けてやると部屋の中に入ってくるようになったのは
滞在期間が長かった夏の頃からだった。
初めは好奇心旺盛に各部屋を探検して歩いていたけれど
総ての部屋を調べ終わったからか
最近ではリビングで食事をしグルーミングして
リビングの3つの椅子のどれかに陣取るようになっている。
(右上は熟睡しているサンちゃん、この時が一番かわいい、まるで生きている置物)


窓際にある二つの籐椅子は
窓から差し込む日光の当たり具合によって位置を換え
日向ぼっこの具合を調節している。
たっぷり日差しを浴びると
黒猫なので触ってみると毛の表面がかなり熱くなっている。
温まりすぎるとフローリングの冷たい床で体を冷ましたり
日の当たらないリビングの奥の椅子に移動したりしている。
サンちゃんは誰かが座っていて温まった席が大好きだ。
だから、誰かが席を立つと直ぐそこに跳びのってしばらく動こうとしない。
最近では、私とツレとサンちゃんでまるで椅子取りゲームをやっているみたいだ。


観察しているとサンちゃんの精神年齢は
人間で言うと1歳児と2歳児の中間あたりに位置しているようだ。
言葉はしゃべれないが、鳴き声と身振りや表情などのサインにより
かなり意思の疎通がはかれることが分かってきた。
初めて見るものに対する警戒心と好奇心は、
赤ん坊なら「なぜ」「どうして」を連発するところだろうが
サンやんは身を硬くして目を瞠り匂いをかぎ
角度を変えて観察し了解にたどりつく。


自分の意思が通じているかどうか
時にはいたずらっ子のような顔をして
軽くふざける仕草をすることがある。
赤ちゃんの第一反抗期と同じような感じと言えばいいか。
母猫と暮らした授乳期の名残だろうか
気持ちよくなると前足を交互に開いたり閉じたりして
おっぱいをモミモミするような動作を繰り返す。
前足の鋭い爪を全開にするので一見凶悪な感じもするけれど
表情がうっとりしているので幼児期に戻って
母猫に甘えていた気分を回想しているのだろう。
(左上は、目を覚まし、悪戯っ子の顔をしたサンちゃん、私の椅子を譲らない構え)


猫独特の例のニャーという鳴き声にも
相当に複雑なニュアンスがあることも分かってきた。
ニャーーーーーと長く鳴いたり、
ニャーに抑揚をつけて震わせてみたり
ため息のように短くニャと呟いてみたりして
複雑に変化をつけるのに驚いている。
接触する時間が長くなるにつれて
猫の言葉が少しずつわかるようになってきた。
全く言葉が通じない外国の街に滞在していて
生活に必要な最低限の言葉がおぼろげに分かってくるのに似ている。


余談だが、サンちゃんはとても臭いオナラをする(笑)。
肉食なのに乾燥した野草を磨り潰している時のような
人間のオナラとは全くおもむきの違う種類の
でもはっきりオナラと分かる奇妙な匂いが漂う。
その時のサンちゃんの表情は少しとぼけたような
すましたような顔つきをするのが何とも面白い。
「サンちゃん、オナラしたでしょ」と言うと
短く小さな声で「ニャ」と応えるので笑ってしまう。


サンちゃんは野良猫なので
気が向いたときにふらりとやってきて
食事をし、グルーミングをし、昼寝をして、大きな欠伸をして、
暗くなるとどこにあるのか暗闇の中のネグラに帰ってゆく。
私たちの二地域暮らしに適応した良き友達になってきた。
サンちゃんが来ている時間は何だか温かい。