武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 新たな生活空間の構築(72)


《迷子のチーちゃんその後》

 前回は、山荘に現れた迷子のメス猫チーちゃんを置いて、山荘から現住所に帰ってきたことを書いた。現住所での用件を済ませて数日後に山荘に行ったところ、さっそく現れたのは野良猫サンちゃん、チーちゃんの姿は見かけないので無事に自分の家を見付けたのだろうと思った。ところが、サンちゃんが寛いで椅子の上でぐっすり寝込んでいた時、チーちゃんが現れた。私はサンちゃんのお相手をつとめ、ツレが別室の窓からチーちゃんに対応した。ツレの話では、必死に鳴き叫ぶ感じなので部屋に入れてやり餌と飲み物を与るしかなかったと言う。

 サンちゃんが帰ったのでチーちゃんと再会したが、激しくスキンシップを繰り返すのをみて、不在中に元の飼い主を探し出すことに失敗、レストランもネグラも見つけることが出来ず、この数日間は山荘の周辺を彷徨い、厳しい冬の夜を震えながら過ごしたのだろうことが推測できた。頭に新しい傷をこしらえており、チビ猫なのに気が強く、何度か乱闘も体験したようだ。サンちゃんのようにこの地域で野良としてサバイバルしていくのは無理なように思われた。

 さてどうするか。山荘には既にサンちゃんという通い猫がいるので安易に受け入れるわけにもゆかない。サンちゃんの立場を尊重してやる必要がある。ツレと相談して、取りあえず緊急避難の措置として、二匹の猫を別室に分けて急場をしのごうということになった。せっかく来たのだから、チーちゃんを見捨てないことにした。チーちゃんは可愛がられていた飼い猫らしくしつけはきちんとしており大人しいので何とかなるかもしれないと甘い見通しをつけた。二匹の隔離作戦はうまくゆくだろうか。

 山荘の滞在が終わり、現住所に戻る日になった。チーちゃんを今度は置いてゆくのは可愛そうなので私がダンボール箱に窓代わりのスリットをカッターで開け、俄仕立てのダンボール製キャリーケースを作った。移動の荷物を車に全部積み込んでから、嫌がるチーちゃんを無理やりダンボールに詰め込み急いで出発した。ツレは2列目のシートでダンボールを抱きかかえ、チーちゃんのご機嫌をとることにした。

 吃驚したらしくチーちゃんは激しく鳴き続け、出発して1時間あまりたった高速走行中に、ついにダンボースのスリットをこわしツレの制止を振り切って、車内に飛び出した。100km近いスピードで流れる辺りの景色に興奮し後部の窓から外をみて鳴き、サイドの窓から鳴き、空席の助手席から伸び上がって前を見て鳴き、大変な大騒ぎ。30分足らずで一般道に下りたが興奮は止まず、信号で止まると周りのドライバーが吃驚してこちらを見ていた。

 幸いにも無事に現住所に到着、まずチーちゃんを捕まえて毛布で包んで真っ先に自宅に運び込んだ。玄関に通じるドアを締め切り、荷物を運び込み、ツレは必死にチーちゃんのご機嫌伺いをした。新しい家にきた猫らしく、チーちゃんは総ての部屋を細かくチェックして歩き、たっぷりと餌と飲み物を食べて一息ついた。この日は、何度か部屋を点検してまわり、リビングの椅子の上で寝た。(画像は、現住所で使っている折りたたみ椅子の上で、ぐっすり熟睡しているチーちゃん)