武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 新たな生活空間の構築(81)


《その後の山荘の猫事情》

 最近になって、山荘の猫事情に大きな変化が二つあった。一つ目は、2月に山荘に飛び込んできたベッコウ色のメス猫チーちゃんが、警察への届出期間がすぎて所有権が発生、晴れて私達の家猫に昇格したこと。平成19年の遺失物法の改正により、飼い主不明の犬や猫は、届出から3ヶ月経過すると、保護した人に所有権が発生することになっている。

 3ヶ月間保護している間に、チーちゃんはすっかり我が家の家猫と化し、自宅と山荘の二地域暮らしにも慣れてきた。荷物をまとめて移動の準備をしていると様子を察して、キャリーケースに嫌がらずに収まってくれる。ドライブ中は、小さな子どものように窓にかじりついて景色を見ている。両方の家に自分の居場所をしっかりと確保しつつある。(右の画像は、西日の差し込む読書室の絨毯で日向ぼっこ中のチーちゃん)

 もう一つの猫事情とは、淋しいことに黒いオス猫のサンちゃんが、もう1ヶ月以上山荘に現れなくなったことである。山荘に来てくれない理由はいろいろ推測できるけれど、実情は全く分からない。縄張りのマーキングが薄らいだせいか、以前に来ていた猫達が悠然と敷地を闊歩するようになっている。のんびりと昼寝をしていく猫もでてきた。サンちゃんの長期不在は、山荘周辺の猫の勢力地図を塗り替えつつある。

 サンちゃんは、山荘に現れて野良猫の生き方の面白さを教えてくれたばかりでなく、類い稀なコミニュケーション能力で、猫という生き物の素晴らしさを見せ付けてくれた猫だった。内田百けんの「ノラや」の悲哀に満ちたシュールなユーモアを思い出した。猫の最も猫らしい姿は、もしかすると環境に最適化した野良猫にあるかもしれないと思わせてくれるような猫だった。素晴らしい野良だったのだ。(画像は、3月上旬に山荘に現れたサンちゃん、強敵が現れた印の怪我をしていた頃)

 飼い猫となったチーちゃんも、サンちゃんが来たときの緊張ぶりは他の猫と違っていた。敷地にサンちゃんが現れただけで落ち着きがなくなり、姿を現すと窓ガラス越しに睨み付けている。サンちゃんは顔を逸らしているのにじっと見続けていた。大きくて精悍そうな傷だらけの姿が怖かったのかもしれない。サンちゃんが座ったことのある椅子には今でも決して座ろうとはしない。

 最初はサンちゃんを飼い猫にしてみようと、猫トイレを買ってみたりしたけれど、どうしても飼い猫にするのは不可能と判断せざるを得なかった。そのトイレは今チーちゃんが愛用している。チーちゃんとサンちゃんは良いタイミングで入れ替わったと言えるのかもしれないが、サンちゃんの長期不在は何とも淋しい。

 3ヶ月ほどの長旅に出るオス猫はよくいるという話をきくけれど、永遠の旅に出かけたとは思いたくないので、はっきりした物証がないかぎり、サンちゃんの不在は、単なる猫の長期不在と思い込むことにしている。サンちゃん、早く帰って来い(笑)。