武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

リメイク版鉄腕アトム、ブルートウを読んで「プルートウ」浦沢直樹×手塚治虫(小学館ビックコミック)

  この作品は、浦沢直樹による鉄腕アトム「地上最大のロボット」のリメイク版。
 鉄腕アトムは、私が漫画を読みはじめた頃にスタートした作品。従兄弟の家に遊びに行った時初めて雑誌で読み、その面白さに驚嘆したことを鮮明に覚えている。周りではアトムはそれほどの人気はなかったが私はアトムが大好きだった。子ども心になんとなく<未来>は好ましい夢のように先に向かって広がり、今よりも良くなるはずだという輝きに包まれた概念だった。
 そんな夢の世界で活躍するヒーローがアトムだった。未来にも善と悪があり、子どもが大好きな善が、最後には必ず勝利するお話に何故あんなに夢中になったのだろう。
 リメイク版のプルートウの世界は、全体が悲しみに満ちているのに驚かされた。緊密に描きこまれた絵から、ロボットが人間とあらゆる点で区別がつかなくなった時代であることが伝わる。作者は、ユーモアなど書き込む余裕がないといわんばかりに、息苦しいほどに切迫した調子でストーリーを展開してゆく。
 自ら思考し悲しみを感じることができるようになったロボット達の人生のなんと悲しみに満ちていること。その意味で夢のない未来しか描けなくなった現在を、しっかりと反映した作品といえる。
 主人公はユーロポール高性能ロボット刑事ゲジヒト。物語は、世界に7体しかない超高性能ロボットとロボット法養護団体の幹部活動家が何者かによって、次々と破壊ないし殺されており、その犯人を追跡するサスペンス物。
 登場してくるロボットに高度の感情機能があり、随所に人間以上に人間的な感受性をみせ、人間が人間性を失いつつあることへの苦い批評になっている。
 1巻では、最後にならないとアトムは登場してこない。ノース2号と盲目の老音楽家ダンカンのエピソードが哀切を極め、ストーリーに奥行きを与えている。
 2巻では、アトムもストーリー展開に加わりお茶の水博士も登場する。物語の背景に国際紛争と国際的陰謀がちらつき、高性能ロボットが大量破壊兵器として位置づけられている。2巻の最後にウランちゃんも登場する。
 ストーリー展開から、5巻以上の長編になる様子なので、今のところこれ以上のことは言えないが完全に大人の読み物として書かれている。子どもが読んでも良く分からないだろう。続きの巻が出たらまた書いてみたい。