武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 ヴィヴァルディの四季をジャズピアノで

toumeioj32005-05-17

 イタリアのバロックの巨匠、ヴィヴァルディの有名曲、四季の演奏にはいくつかお気に入りの演奏がある。抜けるように明るく明快なリッカルド・ムーティ指揮ミラノスカラ座フィルハーモニー合奏団の演奏、エウローパ・ガランテファビオ・ビオンディのグループの眼の覚めるような斬新な演奏、チョン・キョンファがヴァイオリンと指揮者を兼ねたセント・ルークス室内合奏団のあでやかでエモーショナルな演奏、カラヤンベルリンフィルを指揮した豪華絢爛たる演奏など、手元において気分に合わせて楽しんでいる。
 今日は、それらのクラシックCDの演奏に勝るとも劣らない素敵なCDを紹介したい。フランスのジャズピアニスト、ジャック・ルーシュの演奏する四季。1960年ごろバッハをジャズ演奏して大ヒットしたジャック・ルーシェの比較的新しい作品。美しいメロディーをちりばめた明るいイタリア産バロックの名品を見事にジャズにアレンジしていて聞き飽きない。
第1番(春)第1楽章アレグロ 軽快で美しい原曲のメロディーを鮮やかにピアノがたどり、表情豊かにベースが続き、ピアノとベースとドラムの3者の合奏が曲を盛り上げ春の嵐を表現する。
第2楽章ラルゴ ゆるやかなピアノとベースの対話をゆったりとベースが支え、花咲く牧場の羊飼いの気持ちよさそうな居眠りを表現する。
第3楽章アレグロ ピアノとベースがニンフと羊飼いの踊りをユーモラスに表現し、それを鮮やかにドラムの多彩なリズムがバックアップする。
第2番(夏)第1楽章アレグロ・ノン・モルト 全てのものが動くのもつらい茹だるような暑さの中、ジャック・ルーシュの軽やかなピアノがそよ風のようなメロディーを奏でる。風は吹いたりやんだり、ベースとドラムとピアノの絡み合いがけだるく進行する。突然のように降りかかるにわか雨と吹き付ける北風、不意にやんで再び襲いくる突風。演奏は絵のように分かりやすい。
第2楽章アダージョ 稲妻と激しい雷雨、降ったり止んだりする原曲の流れを起伏ある曲の流れに置き換えた独創的な解釈、ルーシェの曲作りの素晴らしさが味わえる。
第3楽章ブレスト とどろく雷鳴、空を切り裂く稲妻、あられ交じりのにわか雨が牧場や農場に襲い掛かる。ルーシェたちの演奏は、あくまでも上品で盛り上がりはするがちと物足りないかも。でも盛り上げるところはしっかりと盛り上げる。
第3番(秋)第1楽章アレグロ 収穫を祝う村人達の踊りさざめきひとしきり歌って踊る様子をアップテンポの演奏が快調に描き出す。浮かれて身体のどこかを動かしてみたくなる。
第2楽章アダージョモルト 祭りに疲れた村人達のぐったりした眠りを、重たげなベースとドラムスが表現、ルーシェのピアノが眠りの心地よさを美しく描き出す。
第3楽章アレグロ 勇ましく夜明けとともに狩に出かける狩人、逃げ惑う獲物を追いかけて野山を駆けるめぐる猟犬たち、鉄砲の音が鳴り響き、ばったり倒れる獣たち。描写的なジャズを胡散臭いと思うか、素直に楽しむか、聴くものの鑑賞の幅が試されるかもしれない。
第4番(冬)第1楽章アレグロ・ノン・モルト 冷たそうな北風が吹きつける冬の荒野、震えながら歩む旅人、吹き募る冬の嵐、多分吹雪、思い切り寒い様子を想像して聞くと楽しい。
第2楽章ラルゴ 外は冬でも部屋の中では暖炉が気持ちの良い暖かさを届けてくれる。ルーシェの美しい演奏が見事に心地よさを描き出す。誰もがうっとりする美しいところ。
第3楽章アレグロ 十分に着込み寒くないようにして広い雪原を駆け回る。雪遊びの楽しさ、広々とした雪の広場で遊んでいるうちに、やがで強風が吹きはじめる。ルーシェたちの演奏は、盛り上がりはするもののそれでもやはり上品で美しい。
 こんな勝手な情景描写ができるような、そんな楽しい演奏です。ジャズが苦手な人、聴いてみて。