武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

ご存知劇団四季の同名のミュージカルが有名、その原作だが、独立して楽しめる傑作絵物語、北見隆のシュールでレトロな絵が楽しい。

toumeioj32005-08-19

 奥付を見ると86年11月初版発行とある。この頃に、手にとって見て絵の素晴らしさに引かれて購入したことを覚えている。赤川次郎さんの流れるような見事なストーリ展開は大好きだが、余りのスムーズさと少し饒舌気味の文体にチト飽きてきていた頃だったが、北川隆さんの絵が良かった。劇団四季の記録によると、87年に同名のミュージカルが初演されている。私も四季のこのミュージカルがお気に入りで、これまで2度公演を見ている。2回ともたっぷり楽しませてもらい、良く出来ている、傑作だ、と唸らされた出来ばえ。夢の世界の設定と、舞台の奇妙な装置や目まぐるしい照明の変化がマッチして違和感なく楽しめ、歌と踊りがストーリーがより合わさって、文字通り夢中にさせられっぱなしになったことを忘れない。何度も繰り返し見に来る人がいるというのも頷ける。
 ところで、この原作の絵本というか絵物語の方はと言うと、これはまたこれで非常に素晴らしい出来ばえ。主人公はミュージカルと同じ9歳の女の子ピコタン、北見隆が良く描く首が長く輪郭のはっきりしたひょろりとしたキャラクタ、人形のような感じがするのもこのファンタジーに良く似合っている。とりわけ画面いっぱいに描かれた背景が楽しい。どこの国の風景か見当がつかないような不思議な背景が展開する。
 ページの中の文字の配置、レイアウトが上手い。イラストとのバランスがピタッと決まっていて、絵と文字が決してお互いを干渉するようなページがひとつもない。見事に絵と文がお互いにしっくり組み合わされている。
 それではお話の方はというと、やっぱり上手い。さすが赤川次郎、泣かせどころとなるクライマックス場面をしっかり組み立てていて、ジーンとさせる点で抜かりはない、見事なストーリー展開。絵のほうもカラーページとセピア色のモノトーンページが上手く配置されていて、文句なし。うっかりするとセンチメンタルな方に流れかねないウエットなお話を、北川隆の乾いた感覚のイラストが支え、いい感じの仕上がりになっている。少し難しめの漢字にはすべてルビが振ってあり、小学生でも十分楽しめる絵本になっている。
 絵を良く見ていくと、所々に遊び心を発揮したところがあって、見れば見るほど楽しい。奥付から、見返しにいたるまで、遊び心が溢れている。シリーズになって続きが出るのかなと思って期待していたが、これ1冊で終わってしまった。赤川さん、北見さん、そろそろ「冒険配達ノート」の続編をやってください。