武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 『遊歩大全』コリン・フレッチャー著 芹沢一洋訳(発行森林書房)

toumeioj32005-09-13

 「ハイキング、バックパッキングの喜びとテクニック」と言うサブタイトルのついたこの本は上下2巻に別れており、通しのページを見ると、全部でなんと670ページにもなる分厚さ。歩くことについての薀蓄を期待して読み始めると、じきに失望し途中で挫折してしまう。
 奥付を見ると発行が1978年1月となっているので、30年以上も昔のことになるが、当時を思い返しても半年近くかかって休み休み読んだ記憶がある。読み終わってからも、折に触れて読み返したりしたので今も手元に残っている。不思議な魅力がある本。
 著者は、最初の方ではっきりと断っている。日帰りのウォーキングなら、ほとんどの装備はいらないと。ところが、例え1泊でも屋外の自然の中で過ごすとなると、話は全く違ってくると、はっきりと言い切る。そこから、具体的で可なり徹底した装備の話が始まる。道具にこだわる人なら、著差の話に引き込まれないではすまない。合理的で実用的な野外生活の装備の話しが、こだわりを積み重ねて延々と続く。私も、いい加減な提灯記事よりも、経験に裏打ちされたこだわりのある道具話は嫌いではない。面白いと言うのではないが、非常に興味深く読んだことは確か。では、内容に移ろう。
 内容は、大きく二つに分かれ、その一つは「なぜ歩くのか?」、もう一つは「家を背負って」となっているが、「なぜ歩くのか?」に割かれるページはたったの12ページ、それで終わり。もう一つの「家を背負っては」残り650ページ以上延々と続く。従って、「なぜ歩くのか?」は、前書きとみなし、それ以降が本文と考えた方がいい。
 では、「家を背負って」と題された本文に行こう。内容は、相当に徹底している。
 ①設計図では、装備と計画についての総論が、②基礎では、足元の装備について詳しい記述が期待できる。次の③外壁では、フレームやバックパックなどのリュックの話、④台所では、食事に関するすべて、⑤寝室では、テントやスリーピングバッグなど、眠りの際に必要な道具と知識のすべて、⑥衣裳部屋では、下着からレインウェアまでの着るもののすべて、⑦家具と器具では、以上の分類からこぼれた小物類のこと、⑧家事その他では、①から⑦までに語りつくさなかったその他の事柄。以上の記述のほとんどが、実際の使用場面を想定して、商品名をカタカナでカタログのように名指ししながら克明に語られてゆく。
 私など、この上下2冊を読み終わっただけで、相当のアウトドア通になって、1週間から10日程度の長期バックパッキングから帰ってきたような快く疲れたような感じを受けた。
 実際、人里離れた自然の中では、自分と自分の装備だけが頼りになるのは確かなこと。天候や自然条件を甘く見て、恥ずかしい限りの遭難騒ぎを起こすよりも、事前にこの程度の研修をしておくのも、決して無駄ではないとは思うが、それにしても、フレッチャーさんのこだわりようは、ただ事ではない。
 私の野宿オートバイツーリングでは、いくつかのテクニックを使わせてもらった。なるほどと思うことが多かったので参考になった。ただし、高温多雨、湿度の高いこの国のアウトドアで使うには、そのままではなく実情に合わせれば参考になるのではないか。絶版のままのようなので再版期待している。