武蔵野日和下駄

10歳から続く乱読人生、年季の入った活字中毒、頭の記録メディアがダウン寸前、記憶のダイエット装置

 「脱・初心者を目指すあなたに」と題されたこの本は、どれを読んでも分かるのを拒んでいるような感じを与えるPC参考書が多かった当時、文字通り<ファイル>というたった1個のキーワードをとことん展開して、Windows95 というやっかいなOSを見事に解説した「眼からウロコ」の1冊だった。奥付を見ると、平成9年6月初版発行とある。Windows95 が発売されてブームとなった1995年から遅れること2年、PCが本格的に大衆化して、分からなくて困っている人が大量に出始めた頃だった。

toumeioj32005-10-12

 私も事情があって、人にPCを教える立場に立たされて、今ひとつ、何を教えていいのか確信がもてずに悩んでいた時期だった。マウスとキーボードの使い方でお茶を濁し、本当はもっと別のことを教えなきゃいけないんだけど、難しがられるだろうなあと困り抜いていた頃だった。本当にこの高橋浩子さんの1冊はありがたかった。忘れらない1冊として今も書架の一隅に大事に置いてある。
 なんとかPCが操作できるようになった人達の、そう、次の一手をどう打てばいいかが分からなくて悩んでいたのだ。表題にあるように「脱・初心者」、このキーワードが掴めれば、多くの人を納得させられる教え方ができるようになるということを教えてもらった。自分自身の頭の中を整理する意味でも、本当にうれしい参考書だった。今でも、私にとってこの本は分かりやすいPC参考書のベスト5の位置を譲らない。
 では、本書の内容に入ろう。まず、目次を引用する。

PROLOGUE ファイルがすべてですべてがファイルだ
1 ファイルの基礎知識
2 Windows95のファイルを知る
3 ファイルを上手に整理する秘訣
4 ファイルの困ったに答える

 ご覧のように構成はいたってシンプル、序章を含めると5つの章からなっている。
 序章では、PCが大きくハードウェアとソフトウェアに分けられ、ハードウェアが機械のメカニズムの部分だとして整理され、残るソフトウェア、すなわちプログラムとデータを含むすべてがファイルによって構成されていると言うことが明快に指摘される。要するに、機械以外の要素のすべてがファイルだと総括される。確かにそうだ。この指摘を受けて、ファイルを知ることと、ファイルを操作できるようになることのメリットが示される。①データ交換、②ファイルに関するトラブル対処、③ファイルの整理と管理、④いじっていいファイルといけないファイルの区別、⑤周辺機器の接続、⑥自信をもって人と話せる。
 確かに、この本は以上の6項目について、出来るようにしたり、出来るような気持ちにさせたりする力を持っている。説明の進め方と、文章自体がきわめて明快、分かりやすい。高橋さんは素晴らしい教育者の素質をお持ちの方だ。ファイルというキーポイントに、1冊の本のすべてを絞り込んだこと自体、素晴らしい決断だった。
 第1章が、ファイルの基礎知識、特に、ファイルを分類する拡張子の概念をこれほど分かりやすく説明した書物を他に知らない。拡張子の分かりやすさが、一つの峠のような気がする。ここを越えると先がぐんと楽になる。
 第2章は、ファイルという切り口から見たWindows95の正体。Windows95というOSが何で出来ていて何をしているのかと言う謎を見事に解き明かしてくれる。ミステリーの暗号解析を読んでいるようなわくわくする楽しさと言ったらいいか。なんとなくよく分かった気にさせてくれるところ。
 第3章は、ファイルの取り扱い方、ファイルの操作を主体にした楽しい応用操作編。何をして良いかいけないか、分かりやすく説明しながら先へ進んでゆくので分かりやすく失敗しない。
 第4章は、ファイルに関するQ&A、よくある質問に答える形をとったその他の知識。
 この本は非常によくできていたので売れたのだろう、この後、何冊も高橋浩子著で続編が出ている。ファイルというキーワードを軸に、何冊も本が書けたのだ。今となっては、やや古い感じもあるが、ファイルの概念の重要性は今も変わらないのではないか、という気がする。今読み返しても、基本的なところは古びていないことに驚く。優れた参考書とは、そんなものだろう。